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第六章 これは夢なんだし
握った比呂の手は、温かかった。
しっかりと、ヒトの皮膚、肉、骨の感触があった。
しかし、隼人はこう考えていた。
(多分これは、夢だ)
目の前で、小さなネコに変わって見せた、比呂。
その不思議な体験を、そのまま鵜呑みにするほど、隼人は無邪気ではなかった。
(おそらく私は、慣れない動画配信で疲れて、ソファでうたた寝をしているに違いない)
そして、夢ならば、と少々大胆な行動をとり始めた。
「ああ、疲れたな。比呂くん、一緒にコーヒーブレイクといこう」
「え? う、うん。いいけど……」
覚悟を決めて素性を明かしたというのに、これまで通りに振舞う隼人に、比呂はとまどった。
(隼人さん、僕のこと怖くないの? 気持ち悪くないの?)
「何か、甘いものも欲しいな。お茶菓子は、あるかい?」
「昨日焼いた、パウンドケーキがあるよ」
それはいい、と隼人は素敵な笑顔を比呂によこした。
「こっちへおいで。一緒に、食べよう」
こうなるともう、比呂は嬉しくて仕方がない。
喉をゴロゴロ慣らす勢いで、隼人にくっつきリビングのソファへ向かった。
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