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「僕ってさ、見た目がちょっとアレじゃん。綺麗じゃないから、さ」  黒と茶の、サビ模様の毛皮。  せめて、尾がしゅっと長ければ、凛々しく見えるのだろうが、それも短く丸い。  昔から、比呂はヒトの目に受けが悪かった。  子ネコ時代に、一緒にミィミィ鳴いても、もらわれていくのは見た目の良い兄弟だ。  不遇のまま、無念を抱いたまま、まだ幼いまま、死んでしまった比呂。 「そんなネコは、その後の道を選ぶんだ。もう一度、ネコとして生まれるか、それとも……」  それとも、あやかしとなって、何度も生死を繰り返し、猫神となるべく精進するか。 「あやかしになれば、ヒトの姿に化けられるようになるから、まだマシかなぁ、って思った」  ネコでは、幸せになれない。  こんな、見た目が悪いネコでは、生きていても良いことがない。  そう考えた比呂は、あやかしとなり、ヒトのふりをして生きてみることにしたのだ。 「でもね。人生、そう甘くなかったな。100年くらい、生きたり死んだりしてきたけど」 「100年……だって?」  ヒトを偽り、人間社会で生きてみた比呂。  だが、やはり世間の風は冷たかった。  時代が、彼には合わなかったのだ。

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