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「だから比呂くんは、家事が得意なのか」  隼人は、比呂の話に聞き入っていた。  夢でもなく、作り話でもない。  100年近くを生きてきた少年の語りには、凄味があった。 「掃除に洗濯、炊事に裁縫。何でもやったよ。今は機械化されてるから、ずいぶん楽だね」  そうやって働くうちに、比呂はよく、屋敷の主人に見初められた。  軍人とはいえ、中には高潔な人間もいた。  仕事を離れれば、優しい豪商もいた。  時代とともに流れ、彼らの寵愛を受けて、ようやく幸せを掴んだか、と思われたが……。 「エッチした後に、眠っちゃって。その時に、正体に。ネコの姿に戻ちゃってさ」  比呂は、ぺろりと舌を出して見せた。 「ダメなんだよね、僕。好きな人に愛してもらうと、ついつい油断しちゃうんだ」  身も心もゆだねた相手の隣でまどろむと、緊張が解けてしまうのだ。  ネコの本性を、現してしまうのだ。  そうなるともう、恋も愛もなかった。  隣で寝ているネコが、比呂なのだと気づく者は、誰もいない。 『どこから入って来た、この薄汚い野良ネコ!』 『醜いネコだな。さっさと出ていけ!』  痩せて小さなサビ猫の比呂に、手を差し伸べてくれる者は、いなかった。

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