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 気付くと比呂は、ネコの姿になって、隼人の足元に小さく丸くなっていた。 「ニャァ」  語るうちに、過去の辛い思い出が甦って来たのだろう。  もう、何も話したくない。  ネコになれば、人語を喋らなくて済む。  ヒトの姿をやめて、ただうつむいていた。 「比呂くん」  そんな比呂を抱き上げると、隼人は彼の狭い顔を自分の目の高さまで持ってきた。  そして顔を寄せて、鼻と鼻とをくっつけた。 「私は、ネコの比呂くんも大好きだよ」 「ニャァ……ニャァ、ニャァ!」  胸に抱くと、比呂はしっかりと爪を立ててしがみついてくる。  そんな彼を優しく撫でながら、隼人は何度もうなずいていた。 「どこにも、行かないで。ずっと、私の傍にいてくれ」 「ニャァ」 「いいね?」 「ニャァ」  隼人には、ネコの言葉は解らない。  だが比呂は、喉を鳴らしてくれた。  ずっと、ゴロゴロと鳴いていた。

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