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夕刻、16時からの取材に合わせて、隼人は15時には支度を終えていた。
シャワーを浴びて、コーヒーを口にして。
スーツを身に着け、姿見の前に立っていた。
「隼人さん、ネクタイ少し曲がってるよ」
「比呂くんも、そう思うか?」
なかなか思うように決まらない、と首を傾げる隼人のネクタイを、比呂が整えてくれた。
「はい、出来上がり。イイ男!」
「さすがだな。ありがとう」
比呂の目は、少し赤い。
隼人がシャワーを浴びている間に、ちょっぴり泣いてしまったのだ。
(だって。だって、隼人さんが、あんまり優しいんだもん……)
鼻チューとか、してくれた。
温かな気持ちを噛みしめていると、出がけの隼人が振り向いた。
「比呂くん。良かったら、夕食の準備をお願いするよ」
「えっ? でも、帰りは遅くなるんでしょ。仕事、23時まで、って笹山さんが言ってたよ?」
「軽いものでいいから。比呂くんの手料理が、食べたいんだ」
「う、嬉しいお言葉!」
眠くなったら、先に寝ててね。
そんな言葉を残して、隼人は出かけて行った。
だがしかし。
「起きて、待ってる。絶対! 眠らずに! 隼人さんの帰りを待ってるから!」
比呂の心に、100年目の恋が芽生えていた。
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