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第十章 余裕とゆとりと吉永 紫織

 大手出版社の、応接室。  そこに、隼人は通された。  これから、エンタメ誌のインタビューを受けるのだ。  だが、肝心のインタビュアーの準備が、まだだった。 「すぐに担当者が参りますので!」 「どうぞ、お急ぎにならなくても大丈夫ですよ」  隼人の言動は穏やかだったが、案内の社員は慌てて応接室を出ていった。  ソファに掛けて辺りを見渡すと、窓辺に白い蘭の鉢植えが置いてある。 「綺麗だな。……いや、あれは」  良く目を凝らすと、それは精巧にできた造花だった。 「シルクフラワー、か。生花と見分けがつかないな」  そういえば、私のマンションにもグリーンがあったっけ。 (あれは、どうなんだろう。比呂くんが調達した、と言ってたが)  本物か、フェイクか。 「帰ったら、訊いてみよう」  楽しみが増えたな、などと考えたところで、隼人は気づいた。  自分はソファに、ちゃんと背を伸ばして座っているのだ。  このところ、やけに疲労感を覚えていたのに。  明るく振舞うその影で、肩を落として溜息をついていたのに。  ぐったりとソファに沈んだまま、動かないこともあったというのに。 「何だか、元気になっているぞ。さっぱりしているぞ、私は」  無意識で、背筋を伸ばしていたのだ。  決して、無理ではないのだ。

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