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「吉永くん!? 君、失礼なことを言うんじゃないよ!」  慌てふためき、本多は部下を叱った。  非礼をお詫びしなさい、とたしなめた。  しかし、その紫織は隼人に謝るどころか、ダメ押しをする始末だ。 「失礼ですか? 私は、真実を述べただけですが」  隼人は紫織の態度に、驚いた。  だが、それは少しだけ。  品の良い物腰が崩れることは無く、この挑発を笑って受け流した。 「吉永さんも、そう思われますか。参ったな。実は、私のマネージャーにも、同じように言われました」  隼人は、笹山の厳しい意見を思い出していた。 『そこが、問題なんだよ。良い人過ぎる。イケメンで、正統派で、真面目過ぎるんだ。この先、芸能活動50年を目指すには、殻を破らなきゃ!』  紫織の言葉は、隼人にとって、すでに経験済みの打撃だ。  ダメージは、無い。 (ただ、以前の私なら、ひどく落ち込んだだろうな)  あの時の、心身ともに疲れ果てていた状態で、気心の知れた笹山以外の人間から攻撃を受けていれば。 (自分が落ち込むだけでなく、この吉永さんに対して怒りを覚えたかもしれない)  だが、そうはならない。  今の私には、余裕が、ゆとりがある。 (比呂くんの、おかげで)  心に浮かぶ比呂の笑顔とシンクロするように、隼人は微笑んでいた。

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