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「なぜ、桐生 隼人ともあろう御方が、あんなネコを飼ってるんですか?」
「私にとっては、大切な家族なんですよ」
「イメージダウンじゃないですか? あなたらしく、高価な血統書付きでも飼えばいいのに」
「縁がありましてね、あの子に。可愛いですよ、とても」
二人のやり取りに、本多は胃がちぎれそうだった。
(吉永くんは、後で厳重注意だ! ああ、桐生さん! 申し訳ありません! すみません!)
一見、顔色一つ変えずに、穏やかに受け答えしている、隼人だ。
しかし、もしかすると、腹の中は煮えくり返っているかもしれない。
もう二度と、取材に応じてくれないかもしれない。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう!)
本多の冷や汗がピークに達した時、隼人のポーチからメロディが流れた。
「失礼。電源を切ることを、忘れていました」
「どうぞ、お電話に出られてください!」
しかし、取材を受けている最中なのだ。
発信者だけ確認し、緊急性が無いならスルーしよう、と隼人は考えた。
「笹山さんだ」
彼なら、隼人が今インタビュー中ということを、知っている。
よほどのことが無ければ、電話など寄こさないはずだ。
「緊急、というわけか」
隼人は本多に軽く会釈してお詫びすると、通話を繋いだ。
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