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「もしもし、桐生です。笹山さん、何かあったんですか?」
『お仕事中、ごめんね! 実は、19時からの収録が、延期になっちゃって!』
「延期、って。掛川(かけがわ)さんの御都合ですか?」
『そうなんだよ。急に、決まったんだ』
この後、隼人は人気長寿番組『やよいスマイル』にゲスト出演する予定だった。
『掛川 やよい』は、この国の大御所俳優だ。
すでに84歳という高齢でありながら、現役で活躍している。
彼女が司会を務める、このトーク番組には、隼人は過去にも呼ばれたことがある。
子役の時に一回、少年期に一回、成人してから一回。
そして今日の収録で、四回目になるはずだった。
『すっかり立派になった隼人ちゃんをお招きするのが、楽しみだわ』
『やよいさんにとって私はいつまでも、隼人ちゃん、なんですね』
つい最近、こんな会話を交わしたばかりなのに。
歳数が多いので、隼人は不安になった。
(もしや。お体に、どこか不調が……)
笹山に問いたいところだったが、今はすぐ傍に週刊誌ライターが二人もいる。
横目でちらりと様子を見ると、紫織だけでなく、本多までもが身を乗り出している。
記者の血が騒ぐのだろうが、掛川の健康について、あることないこと書かれては困る。
「承知しました」
なるべく明るく、隼人は返事をした。
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