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「そうしたら、この後のスケジュールが、ぽっかり空きますね」 『桐生さん。たまには、のんびりしたら?』 「そうだ。笹山さん、一緒に夕食をどうですか? 私のマンションで」 『いいの?』 「どうぞ、どうぞ。あぁ、少し待ってください」  そこで隼人は、本多と紫織に視線を向けた。 「本多さんたちも、良かったらいかがですか? ご馳走させてください」  突然のお誘いに、本多は驚いた。  しかし、さすがに彼は、ベテランライターだ。  桐生 隼人の私生活が覗ける、とは思ったが、先ほどまでの非礼を忘れてはいなかった。 「残念ですが、私はこの後、会議に出席しなくてはなりませんので」  プライベートにまで首を突っ込まない代わりに、部下の言動を許して欲しい。  そんな願いが、透けて見えていた。  だがしかし。 「私は喜んでお邪魔しますよ。あの雑種猫にも、会いたいし」 「よ、吉永くんーッ!」  こともあろうに図々しくも、非礼の張本人・紫織は隼人宅へ行く気満々だ。  それでも隼人は、やはり笑顔でうなずいた。  大胆にも、この無礼者を、比呂の待つマンションへと招待した。  自分に敵意剥き出しの人間を、プライベートルームへ立ち入らせる。  それは隼人の、自分自身への挑戦だった。  今まで、好意的な人々とばかり接してきた。  ちやほやされることに、慣れきってしまった。 (そんな甘い殻を、打ち破りたいんだ。私は)  ひどい目に遭うかも、しれない。  それでも、比呂くんが傍にいてくれれば、大丈夫。  きっと、乗り越えられる。  比呂の笑顔を胸に、隼人は確かな自信を抱いていた。  

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