63 / 229

3

 紫織の履歴。  笹山が覚えているそれは、芸能界にとって不穏なものだった。 (吉永は、最初に勤めた出版社を、半ば強引に離職させられた男だ)  その理由は、ある大物芸人のスキャンダルを、公表しようとしたことにある。 (所属事務所からの圧力で、表沙汰にはされなかったが……)  こんなところで、その面を拝むとは!  そしてもしや、今度は桐生 隼人の周りを嗅ぎまわっている!? (桐生さん! 何でこんな男を、連れてきちゃったの!?)  だが笹山も、戦わずして負ける人間ではない。  すっかり酔いが醒めてしまったが、とぼけて知らないふりをした。 「おや? 他にも、お客さんが?」 「吉永 紫織さんです。今日、私を取材してくれた、ライターさんですよ」  にこやかに、比呂にした時と同じように紹介され、紫織は対応に困った。 『取材? 私は、本多の隣に座っていただけですが』  このように、さっきと同様のリアクションだと、稚拙な印象を与えるのでは?  プライドの高い紫織にとって、それは我慢ならないことだった。  どういった言葉を返そうかと考えていると、朗らかな声が上がった。 「さ、吉永さんも座って! はい、グラス。笹山さん、お酒こっちに貸して!」  比呂が、ハウスキーパー以上の働きを、始めたのだ。

ともだちにシェアしよう!