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紫織の履歴。
笹山が覚えているそれは、芸能界にとって不穏なものだった。
(吉永は、最初に勤めた出版社を、半ば強引に離職させられた男だ)
その理由は、ある大物芸人のスキャンダルを、公表しようとしたことにある。
(所属事務所からの圧力で、表沙汰にはされなかったが……)
こんなところで、その面を拝むとは!
そしてもしや、今度は桐生 隼人の周りを嗅ぎまわっている!?
(桐生さん! 何でこんな男を、連れてきちゃったの!?)
だが笹山も、戦わずして負ける人間ではない。
すっかり酔いが醒めてしまったが、とぼけて知らないふりをした。
「おや? 他にも、お客さんが?」
「吉永 紫織さんです。今日、私を取材してくれた、ライターさんですよ」
にこやかに、比呂にした時と同じように紹介され、紫織は対応に困った。
『取材? 私は、本多の隣に座っていただけですが』
このように、さっきと同様のリアクションだと、稚拙な印象を与えるのでは?
プライドの高い紫織にとって、それは我慢ならないことだった。
どういった言葉を返そうかと考えていると、朗らかな声が上がった。
「さ、吉永さんも座って! はい、グラス。笹山さん、お酒こっちに貸して!」
比呂が、ハウスキーパー以上の働きを、始めたのだ。
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