65 / 229
5
「ほどよくフルーティな香りに、くど過ぎない甘味。いいですね、実に美味しい」
「でしょう!? 甘味の強さとボディ感が、すき焼きと良く噛み合ってるんだなぁ!」
そして笹山は、場違いな気分を持て余している紫織に、声を掛けた。
「吉永さんも! 飲んで飲んで!」
「……いただきます」
「おぉ、いい飲みっぷり!」
こんな具合に笹山は、隼人には少しだけ酒を勧め、紫織にはじゃんじゃん飲ませた。
(隼人さんが酔って、口を滑らせないように。そして、吉永には早々に酔い潰れてもらおう!)
そんな思惑を、抱いていた。
そして比呂がまた、良い働きをする。
「隼人さん、食べて。お肉、いい具合だよ」
「ありがとう」
隼人がグラスを取ろうとすると、食べる方へと持っていく。
「吉永さん、飲んで。グラス、空いてるよ」
「ああ、そうだな」
紫織が食べようとすると、飲む方へと持っていく。
とうとう紫織は、酔いを自覚しないほどの酔っぱらいに、出来上がっていた。
ともだちにシェアしよう!

