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『何を言っても、軽く受け流す! 本気で、本心で、他人と向き合っていないんだ』
紫織に指摘され、隼人は改めて自分を顧みていた。
(確かに私は、常に人の目を意識しているところがある)
そして、人の心を考えすぎているところが、ある。
うんうん、と小さくうなずく隼人に、紫織は容赦ない。
「たとえ嫌われても、絶対に譲れない何かを。大切な何かを、持たないのか?」
そこに、酔っぱらいの大声を遮る者がいる。
「だから! 隼人さんは、そういうものは持ってる、ってば!」
比呂だ。
さっきから、紫織が隼人を非難するたび、負けないくらい大きな声で反論しているのだ。
「隼人さんは、すっごく優しいんだから! だから、人を傷つけるようなこと、言わないだけ!」
「そういうのは、本当の優しさじゃない!」
「何だよ、ホントの優しさ、って! 言わない方が良いことだって、あるよ!」
「うるさいぞ、お前! さっきから、大声で!」
「吉永さんの方が、声おっきいよ!」
比呂の方はお茶ばかり飲んでいて、全くの素面なのだ。
しかし、紫織に負けないくらい声を張っている。
それも、隼人にとって嬉しいことだった。
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