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第十六章 何だかエッチな目の色は

「あぁ、忙しい。忙しい!」  聞こえよがしに口にしながら、比呂はパタパタと駆けまわっていた。  泥酔した笹山を家まで送って、もうすぐ隼人が帰って来る。  それまでには、この住まいを心地よい状態にしておきたいのだ。 「隼人さん、明日は3時起きだもんね」  早朝のニュース番組に、ゲスト出演する予定の、隼人だ。  すでに時計の針は、0時に近い。  隼人には、帰ったらすぐにバスを使い、安らかな寝室でぐっすり眠って欲しいのだ。  そんな思いから、比呂は気を配って室内を整えていた。  空気清浄機をフル回転させて、リビングからすき焼きの匂いを消す。  食器を片付け、ビールの空き缶を片付け、テーブルの上を拭く。 「この後、バスルームを温めて。それから、ベッドメイキングをして……」  そこで比呂は、じろりと床を睨んだ。  ごろんと寝そべり、呑気に比呂の様子を眺めるだけの紫織が、そこにいる。 「あのさぁ。手が空いてるんだから、少しは手伝ってくんない?」 「俺は、客だぞ」 「バスルームのヒーター、オンにしてきてよ!」 「そうだな。風呂にでも入って、寝るか」  紫織の返事に、比呂は毛を逆立てた。

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