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「ほら、比呂くん。しっかりして。せめて、ソファまで辿り着いて」 「うにゃあぁ……」  隼人に支えられながら、比呂はよろよろと歩いていた。  暑いバスルームで、灼熱のセックスをしたのだ。  のぼせて、ふらふらになってしまっていた。 「これは、失敗したなぁ」  ソファに転んだ比呂の髪を、ドライヤーで乾かしてあげながら、隼人は反省していた。  彼は、自分とは体格が違うのだ。  持っている体力が、違うのだ。  小さく華奢な比呂に、負担をかけるような行為をしたことを、悔いていた。 「でも。素敵だったよ、比呂くん」  ありがとう、と今はもう99%は眠っている比呂に、隼人は微笑みかけた。  紫織に散々辛辣な言葉を浴びせられ、生まれて初めて傷ついた、隼人。  それは、超人のような鋼の精神力を持った彼にとって、貴重な体験だった。  心が痛む、という普通の人間ならば必ず経験することを、これまで知らずに生きて来たのだ。  自覚のないまま、誰かを傷つけていた恐れは、大いにあった。 「おかげで、これからは。本当の意味で、優しい人間になれる気がするよ」 「うにゃん……」  可愛い比呂の寝言に、笑顔がほころぶ隼人だった。

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