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第二十章 言葉にできない

   周囲が欲する『桐生 隼人』を演じるのではなく、自分の思いを、自分の言葉で、語る。  そう決意した隼人の気配を、テレビの画面越しだが、比呂と紫織は感じ取っていた。  ヒトの姿をしているが、本性はネコなのだ。  動物の持つ、鋭い感覚で、隼人の本気を悟っていた。 「隼人さん。何だか、思いつめてる。大丈夫かなぁ……?」 「あいつ。一体、何をやらかすつもりなんだか」  二人の見守る中、隼人が出演するニュース番組は進行していった。 「桐生さんは現在、公開された動画に映っていたネコちゃんが、話題ですが」 「あの子は、どういった経緯で、桐生さんに飼われるようになったんですか?」  キャスターたちの問いかけに、隼人は考え、答えた。 「縁あって、彼は私の傍へ来てくれたんですよ。飼っている、という感覚ではないですね」 「飼っている、とは思わない?」 「はい。お互いに気が合ったから、一緒にいる、という感じです」 「ネコちゃんを、まるで人間みたいに考えてらっしゃる!」 「かなり熱狂的な、猫教信者ですね。桐生さんは!」  そこで隼人は、一呼吸置いた。 (それは、ちょっと違うな……) 「いえ。私は、いわゆる『ネコ様の下僕』ではないんです。ただ彼は……」 『ただ彼は、私の大切な家族なんです』  隼人の言葉に、テレビの前の比呂は、胸がいっぱいになっていた。

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