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「隼人さん……」  テレビ画面がCMに変わり、やたら元気な明るい曲が流れてきた。  ポップな映像が目まぐるしく移り変わり、隼人が醸した重い空気は吹き飛んでしまった。  だが、比呂の目には、彼の姿が焼き付いていた。  苦し気な、辛い表情が、頭から離れなかった。 「隼人さん。僕たちネコのことを、あんなに真剣に思ってくれてる」 「なんだ『僕たち』って。俺まで、数に入れるな」  むぅ、と比呂は口を尖らせた。 「吉永さんは、あの隼人さんを見て、何も感じなかったの?」 「お前は、どう感じたんだ」 「僕は、嬉しかったよ。ネコがひどい目に遭う動画を観て、ショックを受ける隼人さんは、優しい人だと思ったよ」  やれやれ、と紫織は肩をすくめた。 「また出たな『優しい隼人さん』が。それしか、語彙を持たないのか?」  紫織は茶化して見せたが、比呂からの反応がない。  気が付くと、CMは終わっており、再びニュース番組のスタジオがテレビに映っている。  比呂はもう、そちらの方に気が向いてしまっているのだ。 「まぁ、何だ。いつもの『桐生 隼人』じゃないことは、確かだな」  紫織は口元だけで、小さくそう言った。  そして彼も、新しい一面を見せ始めた隼人を、見守った。

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