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「ふん。人間が勝手に始めた戦争に巻き込まれて、ネコはずいぶん迷惑だったさ」
隼人の話に、紫織はそう吐き捨ててソファを立った。
真剣に聞いていた比呂は、彼の態度にプチ不機嫌だ。
「どこに行くのさ」
「お茶でも、淹れて来る」
紫織がテレビの前から去った後、CMを挟んで隼人の顔が再び映った。
マグカップを両手に持って戻った紫織は、その片方を比呂へと渡した。
「あ。サンキュ!」
「何だ? まだ喋ってるのか、桐生のやつ」
「今からが、良いトコなんだから! 静かにしててよね!」
『船を降りた後、ひいおじいさんは故郷への道で、一匹のネコと出会ったのだそうです』
『きっとネコも、お腹を空かせていたんでしょうね』
『はい。黒いネコだったそうですが、とても痩せていた、と聞いています』
『では、桐生さんのひいおじいさんは、持っていた最後の缶詰をそこで開けた、と?』
『輸送艦で配給された、小さなコンビーフの缶詰です。それを、ネコにあげたそうです』
比呂の耳に突然、ごとん、と重い音がした。
「え? 何? あぁ!」
見ると、紫織が手にしていたマグカップを、床に落としてしまっている。
「吉永さん、大丈夫!? 火傷、してない!?」
「……」
「あぁあ、床が濡れて大変……吉永さん?」
テレビに向かって、紫織は呆然と立っていた。
目を見開き、唇を震わせている。
彼に何かが起きた、と比呂が気付くことは、容易かった。
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