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「いやぁ。やっぱり可愛いですね、ネコちゃんは!」 「癒されますよねぇ」  そんな風にキャスターたちは場を丸く収め、このコーナーの締めくくりを始めた。 「桐生さん。今日は貴重なご意見を、ありがとうございました」 「ひいおじいさんの体験談も、胸に染みました」 「衣食住に不自由のない私が、こんな理想論を述べるのは、おこがましいのですが」 「社会は多様性時代を迎えておりますから、桐生さんのお話しは、視聴者の皆さんにも届くと思います」  ありがとうございます、と隼人は頭を下げた。  カメラは天気予報のセットされたスタジオへと向きを変え、隼人もようやく解放された。  声も無く、ふぅと一息ついた後、まだ少し仕事の残っているキャスターに会釈した。  周囲で働くスタッフたちにも、軽く手を上げたり、お辞儀をしたり。  そして、スタジオから退出し、楽屋へと歩いた。  廊下の角を曲がり、隼人ために用意された控室へと向かうと、ドアの前に人がいる。 「あれっ? 笹山さん」 「桐生さん!」  出演前には姿の見えなかった笹山が、ペーパーバッグを手に、苦笑いしている。  大丈夫ですか、と隼人は彼に駆け寄った。 「二日酔い、とかは? 今日は、オフでも良かったのに」 「桐生さんが朝早くから動いてるのに、マネージャーが自宅で寝てるわけにはいかないでしょ!」 「まぁ、控室へ入りましょう」 「ありがとう」  二人はひとまず、楽屋内へと落ち着くことにした。

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