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「私も、忘れるところでした。笹山さん、さっそくで悪いんですが、お願いがあります」
「何でも言ってよ」
「信頼できる動物愛護団体を、ピックアップして、寄付金を送ってください」
えっ、と笹山は、目を円くした。
「寄付金!?」
「テレビで、あんな偉そうに語ってしまいました。私も、微力ながら行動を起こしたいんです」
「そういうことなら、任せといて!」
(桐生さん、さらに磨きがかかってきたぞ!)
うなずき、笹山は唸った。
この人は、これからもっともっと光る男だ。
輝きが増してきた隼人に、惜しみない拍手を贈った。
確かな手ごたえを感じている笹山に、隼人は声を掛けた。
「私はこの後、午前中はファッション誌の撮影があるんですが。同行しますか?」
「保護団体のチェックが済んだら、合流するよ。午後からは?」
「映画の、キャストオーディションです」
オーディション? と笹山は怪訝な顔つきだ。
「天下の桐生 隼人に、オーディションなんか必要ないでしょ?」
「監督の意向、だそうです。一般募集も、あったらしくて」
(何か嫌な予感が……)
笹山は、恐々と映画監督の名前を訊いてみた。
「青原さんですよ。青原 繁(あおはら しげる)さん」
「青原 繁!?」
(厄介な人に関わる仕事が、舞い込んできたなぁ)
複雑な心境の笹山だが、隼人は笑顔だ。
「今度こそ、青原さんに撮ってもらえるよう、頑張りますよ!」
「ま、まぁ。そこそこに、ね……」
青原は、厳格でこだわりの強い、巨匠だ。
彼の出す容赦のない演技指導で、多くの俳優が自信を喪失している。
それでも、ネコ型クッキーを食べながら、比呂にメールを送る隼人は、ご機嫌だった。
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