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幸い赤信号になったので、笹山は自動車を停めて隼人を見た。
(青原さんに撮ってもらえるよう頑張りますよ! とか言ってたのに!?)
「な、何を言い出すの!? 突然!」
「いや、ちょっと気が変わって」
「何で!? 世界の巨匠・青原監督だよ!? 選ばれたら、すごい名誉だよ!?」
「ええ。それは、解ってるんですが……」
隼人は、笹山に正直な思いを伝えることは、控えた。
(映画となると、撮影に少なくとも一年はかかる)
いや、こだわり派の青原監督なら、二年、三年かかるかもしれない。
そうなると……。
(比呂くんと一緒に、ゆっくり過ごせなくなるからなぁ)
これを白状すると、笹山が比呂を解雇してしまうかもしれない。
隼人は、それを恐れていた。
「動画配信も始めましたし、少し余裕を持ったスケジュールで、ですね」
そう話したところで、信号が青に変わり、笹山はアクセルを踏んだ。
「つまり。ていねいに仕事をしたい、ってことかな?」
「そう! そういうことです!」
笹山の言葉に、すぐ食いついた隼人だ。
(桐生さん、何か様子が変だなぁ)
軽い不信は抱いたが、笹山は首を縦に振った。
「うん。その心意気は、いいと思うよ」
「ホントですか!?」
「ただし、この後のオーディションまでは、ちゃんと受けてね。青原さんに失礼だから」
「はい。それは、きちんと努めます」
書類の一次選考は、すでに通っているのだ。
これで放り出したら、履歴書に目を通した青原の顔に泥を塗る。
隼人自身の、今後のためにもならない。
だが、隼人の頭の中はまた、お花畑になっていた。
比呂との素敵な同棲生活で、いっぱいだった。
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