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第二十四章 因縁のオーディション
青原 繁は、現代を代表する映画監督の一人だ。
国際的な映画祭でも、優秀な賞をいくつも獲っている。
すでに還暦を越えた年齢だが、その創作意欲は衰えを知らない。
いや、ますます旺盛になっている、と周囲の映画人たちは感じていた。
『撮りたいものが多すぎて、困るよ』
以前、ドキュメンタリー番組で、青原は何度もそう言っていた。
頭の中は、素晴らしいシーンに満ち溢れている、と。
だが、こうも言っている。
ピンとくるシナリオが、なかなか出ない。
ピンとくる役者が、なかなか現れない。
ピンとくる美術監督が、音楽監督が、撮影監督が……。
彼の欲張り、我がままぶりは、業界では有名だ。
そんな青原と、一度でいいから共に仕事をしてみたい、と隼人は考えていた。
少年時代は、彼に撮ってもらえれば、知名度が高くなるから、といったビジネスライクな理由からだった。
しかし成人後は、青原への尊敬の念から、そう思うようになった。
彼の映画への情熱や、愛情、そして創り上げるまでの努力は、素晴らしい。
そんな風に隼人は胸を熱くさせ、笹山にも語ったことがあるのだ。
だのに、なぜ。
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