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『笹山さん。この後は、映画のキャストオーディションなんですが』 『うん。そうだったね』 『辞退したら、ダメですか?』 『は!?』  こんな隼人とのやり取りを、笹山は思い返していた。 「あんなに、青原さんと映画の仕事、やりたがってたのになぁ?」  せっかく、書類の一次選考は通ったのに。  笹山は、すでに映画会社に到着し、オーディション控室へ行ってしまった隼人の背中を、考えた。 「青原さんには、これまで散々フラれてきたから、かな」   『桐生さんはね、役者としての個性が薄いんだよ』 『具体的には、どういう……』 『たとえばね。刑事の役をやったね、テレビで』 『はい。観てくださったんですか?』 『あれじゃ、ダメ。ただの刑事だ。『桐生刑事』になってない』  青原に、こうまで言われて、最終選考で落とされたこともある、隼人だ。  さすがにあの時はショックを受け、彼は背中を丸くして、トボトボと帰って来た。 「桐生さん、背筋は伸びてたみたいだけど。今度こそ、うまくいけばいいけど」  笹山は、ラウンジでお茶でも飲みながら、待つことしかできない。  せめて祈りながら、薄いコーヒーをすすった。

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