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「桐生さん、おはよう!」  やたらと明るい笹山の様子に、隼人は一瞬怯んだ。  彼には内緒で、長期休暇を目論んでいるのだ。  比呂の能力のおかげで、問題ないとはいうものの、少し後ろめたさを感じていた。 「おはようございます、笹山さん」  何か良いことでもあったんですか、などと笑顔を作って訊ねながら、隼人はソファに掛けた。 「あったよ。大あり! すごいよ、桐生さん!」  興奮気味に笹山が言うには、あの青原監督からさっそく打診があった、とのことだ。 「昨日の、二次選考オーディションでね。桐生さんの反応に感銘を受けた、って」 「オーディションが行われた部屋には、誰もいなかったですよ?」 「隠しカメラを使って、別室で一部始終をうかがっていたらしいよ」  なるほど、と隼人は唸った。  どこかから録画されてるだろうな、とは考えていたが、リアルタイムで観られていたとは。  青原の感想は、こうだった。 『巨大テディベアへのリアクションは、他の候補者の追随を許さないほどのユニークさがあった』 『今までの桐生 隼人には無い魅力が、ほとばしっていた』  巨匠からの絶賛に、隼人は素直に喜んだ。

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