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「慎重なんだね、隼人さんは」 「いや、それくらい考えないかな。普通」  考えないよ、と比呂は頬を膨らませた。 「佐藤 大介と、桐生 隼人。どっちがイケてるかなんて、一目瞭然じゃん!」 「青原監督は、人間性の深さまで量る人だから」 「相変わらず、自己肯定感の低い奴だ」  比呂ではない異質な声に、隼人はギョッとした。  ここは、私のマンションだが?  笹山さんとの打ち合わせと、レコーディングを終えて、くつろいでいる最中なのだが?  そっと背後を振り返ると、そこには紫織の姿があった。 「やっぱり、吉永さん!」 「驚くな。比呂から、聞いていないのか?」  くるんと首を回して、隼人は正面に向き直った。  そこには、顔を赤くして怒っている比呂がいる。 「吉永さん! 突然、現れないでよ!」 「ああ、すまない。では、数日程お邪魔するぞ」 「いまさら挨拶しても、遅い! せめて、ドアから入って!」  猫又である紫織は、壁抜けなど簡単にできるのだ。  きいきい怒る比呂は放っておいて、紫織は隼人に改まって頭を下げた。 「よろしくお願いします」 「できる限りのことを、いたします」  隼人もまた、かしこまった。  時間旅行のカウントダウンが、始まっていた。

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