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第三十章 旅立ち
「一ヶ月もの時間をかけたい理由は、ちゃんとあるんだ」
ダイニングテーブルで、比呂が作ったおでん鍋から牛すじ串を取りながら、紫織は言った。
「それはぜひ、聞きたいな」
「待って、隼人さん。吉永さんは、少し不真面目すぎ! 話すなら、きちんと話して!」
確かに紫織のスタイルは、目線をおでん鍋、口には結び昆布、手には牛すじ串と、食欲に全振りしている。
とても、今から大切な話をするようには、見えない。
「じゃあ、食ってから話す」
「その態度も、不真面目!」
相変わらずマイペースな紫織と、それにきいきい怒る比呂だ。
お馴染みになってしまった二人の構図に、隼人は笑った。
「まあまあ、比呂くん。この大根とこんにゃく、すごく美味しいよ。味がよく染みてる」
下ごしらえから手間をかけて、作ってくれたんだね。
そんな隼人のねぎらいの言葉に、比呂はころりと笑顔になった。
「解ってくれた!? 隼人さんのために、心を込めたんだよ!」
「ありがとう、比呂くん」
仲睦まじい二人の様子に、紫織は紫織で、密かに口の端を上げた。
以前ならば、イチャイチャしやがって、と毒づくころだ。
だが今は、微笑ましい。
そして、ちょっぴり羨ましい。
傲慢だった彼の心境も、変化していた。
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