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「ああ、楽しいな。こんなに開放的な気分になったのは、久しぶりだ」
「隼人さん、お仕事ばっかりしてたもんね」
名物を食べ終えた後は、比呂と共におみやげを見て回る隼人だ。
二人の後ろを歩きながら、紫織は少しシニカルな言葉を掛けた。
「仕事人間が、つかの間の自由を得て、楽しいんだな」
それには、隼人は振り返り、違うと否定した。
「皆と一緒だから、ですよ。比呂くんと、吉永さんが一緒だから、楽しいんです」
家族旅行や、友達との遠足。
過去の明るい思い出と、同じ空気を、隼人は味わっていた。
「へへっ。吉永さんも一緒、だってさ!」
いたずらっぽく笑う、比呂。
振り返ってこちらを見る二人に、紫織は照れた。
「ふん。……おい、おみやげは、これなんかどうだ?」
照れ隠しに、紫織は手近にあった入浴剤を指さした。
この地方に沸く、名湯の気分が味わえるものだ。
温浴効果を高める、有効成分が配合された温泉の素は、高齢者には最適だろう。
「いいですね。祖父は、お風呂が大好きですから」
「隼人さん。こっちに、いろんな種類が入った、アソートセットがあるよ」
わいわいと、賑やかに。
同じ時間を、生きる。
ずっと一匹狼で過ごしてきた紫織に、それは眩しい輝きだった。
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