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 ていねいな彼の仕草に、達夫は笑顔ではあったが、問いかけた。 「我が一族に、縁がおありで?」 「えっ? あ、それは。その……」  珍しく、紫織は迷った。  正直に、昔の出来事を話しても、すぐに信じてもらえるとは思えない。 「おじい様。彼はライターですから、代々長く続いた私たちのような人間に、興味があるんです」  後ほど、おじい様にインタビューなどもしたい、と言っています。  そんな隼人の助け舟に、紫織はその場をしのいだ。 「そうか。まぁ、そういった話は、ぼちぼちしましょう。あちらに、お茶の用意がありますよ」 「僕、お手伝いします」  働き者の比呂は、自然な所作で達夫の後に続いた。  隼人と紫織も立ち上がり、仏間に漂う線香の匂いを深く吸った。 「桐生。ひいおじいさんの名前は? お位牌は、どちらになるんだ?」 「私が教えるのは、簡単ですが。それは、祖父の口から聞いた方が良いと思います」 「そうか。……そうだな」  二人の男がしみじみとしていると、比呂のよく通る声が響いて来た。 「早く来てよ! お茶が、冷めちゃうじゃないか!」 「元気な子だなぁ、比呂くんは」  祖父の声も聞こえ、隼人と紫織はにっこりと、うなずき合った。 「今行くよ、比呂くん」 「そうだ。おみやげが、たくさんあります」  にぎやかな、四人の時間が動き始めた。

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