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第三十二章 お墓参り
隼人の祖父・達夫宅に、お世話になった三人。
隼人を始め、比呂、紫織は一週間ほど、ただのんびりと過ごした。
紫織は、すぐにでも達夫から、その父・桐生 英介(きりゅう えいすけ)について聞きたがった。
なにせ、英介は命の恩人だ。
片時も、忘れたことなど無かった人だ。
しかし達夫は、紫織から彼の話を振られても、あまり熱を入れて語ってはくれない。
『父は、面倒見のいい人だったよ』
『具体的には? 何か、エピソードはありますか?』
『親族の中に、進学したいが学費がない、という人間がいれば、お金を貸したりしたよ』
『なるほど。それは、戦後の話ですか?』
『うん。まぁ、そうだね』
『戦後すぐは、いかがでしたか? あの時は、国中が大変でしたが』
『……あぁ、そうだ。餅を焼いて食べようか。火鉢を引っ張り出して、磨いたんだ』
こんな具合に、紫織が核心に迫ると、達夫ははぐらかした。
紫織は、自分に最後の缶詰をくれた英介が、その後無事に過ごせたかを、知りたいのだが。
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