158 / 229

3

 桐生家代々の墓は、達夫邸から自動車で5分程度の場所にある。  そこで隼人が車を出そうとすると、いきなり達夫に叱られた。 「たったあれだけの距離くらい、自分の足で歩きなさい!」 「しかし。車で5分なら、徒歩で30分はかかります」 「おじいちゃん。後期高齢者なんだから、車で行こうよ」 「私はいつも、墓参りには歩いて行くんだよ。比呂くん」  結局、徒歩で30分かけることにして、4人は出発した。 「隼人さん。お水、重くない? 僕、途中で交代するよ」 「ありがとう、比呂くん。でも、これくらい平気だ」  隼人は、墓石を掃除するための水を、たっぷり用意して運んでいる。 「若い者がいると、念入りに磨けるな。さすがの私も、いつもは水鉢に入れる分しか持てないよ」  そんなことを話しながら、歩いた。  不思議なことに、ただ歩くだけなのに楽しい。  お喋りをし、時々空を見上げては雲を眺める。  風を感じ、鳥の羽ばたきを聞く。 「ああ、和むなぁ……」 「あれっ? 紫織さんが、珍しいこと言ってる!」 「俺だって、たまには、のどかな気分になるさ」 「吉永さんも、出版社では忙しかったでしょうからね」 「ふん。俺は桐生と違って、仕事人間じゃないぞ」  若者たちの会話に微笑みながら、達夫ものんびりと歩いていた。

ともだちにシェアしよう!