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寒空の下、せっせと草むしりをする隼人。
洗濯機を回しながら、掃除機をかける比呂。
そして、将棋を指しながら、紫織は達夫からいろいろな話を聞いていた。
『孫、つまり隼人の父親が生まれた時には、ひどく喜んでくれたよ』
『新しいものが好きでね。電化製品なんか、すぐに飛びついてたなぁ』
『散歩に出る時は、お気に入りのベレー帽とステッキで、おしゃれをしてたっけ』
それは、在りし日の英介の姿だった。
紫織は、おかげで少しずつ少しずつ、恩人の記憶に肉付けをすることができた。
ただやはり、戦後間もなくの苦しい思い出は、あまり語られることはなかった。
それでも、一日、また一日と顔を合わせて将棋を指すうちに、達夫は桐生家の内情まで語ってくれるようになった。
『父・英介は、戦前には大きな都市で、芸術活動をしていたんだ』
彼が特に愛したのは、音楽。
モダンな洋館に住み、ピアノやバイオリンを弾き、作曲をしていた。
だが彼の創った曲が、そこそこ売れて有名になってきた頃に、戦争が始まってしまったのだ。
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