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祖父・達夫が将棋を指しながら、曽祖父・英介を紫織に語って聞かせている。
そのことを、隼人は知っていた。
紫織の口から、伝え聞いていたからだ。
「英介さんが息子の達夫さんに会えたのは、出征して6年後だったらしい」
「赤ちゃんの元へ戻る、と言っていたのに、ですか?」
「30歳で戦地へ赴き、35歳で終戦を迎えた。その一年後に、ようやく復員して祖国の土を踏んだ、というわけだ」
「赤ちゃんどころか、もう6歳ですよ」
本当に、戦争というヤツは、金と時間と命を無駄にする。
紫織は、嫌悪感を隠そうともせずに、そう吐き捨てた。
そんな彼の姿に、傍で聞いていた比呂は少し嬉しくなった。
(吉永さん。最近、人をバカにしなくなったみたい)
いつも斜に構えた態度で、正面から物事に向かう隼人を、皮肉っていた紫織。
彼は皆と賑やかに同じ屋根の下で過ごし、達夫の話に耳を傾けることで、変わった。
そう、比呂は感じ取っていた。
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