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 一方隼人は、週に一回ほど、マネージャー・笹山に連絡を入れていた。  比呂の時間遡航能力で、一か月前に戻ってやり直すことは、できる。  だが、さすがに一ヶ月も音信不通では、笹山に申し訳ない。  心配をかけたくない、との隼人らしい生真面目な気配りだった。 「笹山さん、桐生です。お変わりありませんか?」 『その声だと、元気そうだね。安心したよ!』  メールではなく、電話をして欲しい、とは笹山からのお願いだ。  声の調子で、気力体力の具合が解るからだ。  こちらもまた、笹山らしい配慮だった。 「もう、三週間になります。笹山さんには、ご迷惑をかけているのでは……」 『大丈夫、安心して! 皆さん、桐生さんを心配はするけれど、悪く言う人はいないから!』 「そうは言っても。仕事をたくさん延期したり、お断りしたりしてしまいました」 『後で挽回できるから。今はしっかり、心身を休めてね!』  笹山には『自分を見つめ直したい』などと、それらしい理由を伝えている、隼人だ。  彼は快く、そんな隼人を送り出してくれたのだ。  通話を終えると、いつの間にか隼人の傍には、比呂が立っていた。 「隼人さんの、人望だね。これまで真面目に、誠実に生きてきたからこそ、だね」  優しい笑顔の彼を、隼人はそっと抱き寄せた。  黙っていても、心は通い合っていた。

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