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 冬の甲板は、北西の風が冷たい。  それでも、身が引き締って心地いい。 「大したもんだな、桐生の血族は」  冷たい風の中に溜息を混じらせながら、紫織はそう言った。  将棋を指しながら聞いた、英介や達夫の歩んだ人生。  そして隼人の両親が、今まさに踏みしめ付けている、足跡。 「立派だ。立派過ぎて、泣けてくる」  フェリーの手すりに沿わせた腕に突っ伏してしまう、紫織だ。  150年も生きて来て、何も成しえていない俺とは、大違い。  短い生涯を、精一杯に生き抜く。  そして後世に、バトンを繋ぐ。  紫織は、そんなヒトの生きざまに、今は素直に感嘆できるようになっていた。 「吉永さん、大丈夫? もしかして、お腹空いてるんじゃない?」 「何だよ、比呂。せっかく思いを噛みしめてるのに、茶化すな」 「マジで言ってるんだよ! お腹がすくと、ろくなこと考えなくなるから!」  私も比呂くんに賛成です、と隼人は相槌を打った。 「もうすぐ港に着く時刻です。船を降りたら、すぐ食事にしましょう」 「全く、どいつもこいつも……」  しかしながら、ちゃんと食べて、よく眠れ、とは達夫からも言われた教えだ。  紫織は、大人しく従うことにした。

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