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「青原監督が、桐生さんに個人的に会いたい、って言ってる話、したよね」
「はい。昨日、電話で」
「それが、さ。最終選考を蹴ってまで、一ヶ月も何してたか聞きたい、って」
「えっ……」
さすがの隼人も、これには考えさせられた。
正直に打ち明けたところで、到底信じてもらえないような体験を、山ほどしたのだ。
そんな隼人に、笹山が探るような目を向けている。
彼は隼人のことを、心身の疲労による病気と信じて疑っていないのだ。
「大丈夫かな、桐生さん。話せなかったら、僕の方からお断りの返事をするよ?」
「いや、それは。……大丈夫です。私が青原さんに会って、お話しします」
「面談中に気分が悪くなったら、遠慮なく救急車とか呼ぶんだよ?」
「嫌だなぁ。そこまで重篤ではないですよ」
冗談半分の会話だ。
だが、半分は冗談でも、後の半分は本気なのだ。
そこまで深く心配してくれる笹山に、隼人は心から感謝した。
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