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「猫神様。僕は、幸せだよ。今が一番、幸せだよ」  ネコの姿では、小汚いと蔑まれてきた、命。  ヒトの姿では、権力者に弄ばれてきた、命。  あまりにも悲しく辛い、比呂の歩んできた道のり。  だけど。 「だけど、隼人さんは。僕の全てを愛してくれたんだ」  僕も、隼人さんを愛してる。 「どんなに長生きしても、こんなに愛せる人は、二度と現れないと思う」  だから。 「だから僕は、ネコのあやかしとして生きることを、もう辞める」  真っ直ぐな比呂のまなざしは、彼の強い決意を物語っていた。 「それで、良い」  青原もまた、澄んだ目で比呂を見た。 「途中で気が変わったら、私にも相談しなさい」 「変わらないよーだ!」 「ひ、比呂くん!」  お行儀の悪い、とたしなめる隼人と、ぺろりと舌を出す比呂。  そんな二人に、青原は笑顔でうなずいていた。  何度も何度も、うなずいていた。

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