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第3話 お仕事
いっつも選択肢を間違えるんだよね。
こっちじゃないかも、とかさ。
いつもの自分ならこっちを選んじゃうから、じゃあ、今回は違う方を選んでみようって思っても、結局、そうやって選んだほうが「あーあ」って結果になる。
甘くて美味しそうなドーナッツが二種類あってさ。一つを選ばないといけないってなったら、すごくいっぱい考えて、考えて、考えて、で、選んぶ。けどさ、結局、あんまだった。俺ってそんなことばっか。
絶対に「そっち」じゃない方を選んじゃう。
でも、今日は、「あーあ」ってならない……のかもしれない。
あ。
選んでない、のか。
俺。
そっか……選んでなくて、選ぶ前に。
「シャワー浴びた」
彼に、さらわれたんだった。
「! っ、あ、うん。ありがとー」
「いや」
ドキッと、した。
この仕事でドキッとしたことなんて、ただの一回だってない。なかった。
別にお客さんだって、最低な人だけってわけじゃない。良い人もいたし、紳士って思った人もいた。お金を払わないとセックスできないって人ばっかってわけじゃなくて、お金を払ってセックスするくらいのドライなほうが楽でいいからって人もいた。
かっこいいなぁって、まぁ、思う人も、いた……けど。
「……? 悪い。髪、乾かすべきだった?」
「あっ! ううんっ、全然濡れてても。っていうか、頭まで洗わなくてもよかったのに」
お客さんにドキッとしたのは、初めて、だ。
「……ぁ」
ベッドの端に座って、彼がシャワーを浴び終えるのを待ってた。
どうしようって、なんかさ、ソワソワしたりして。
ほら、トクトク、鳴ってる。
心臓。
「えと……」
手首を掴まれて、引っ張られるまま彼の胸に飛び込むような感じになった。手首にしっとりと彼の指先が馴染んでく。シャワーを浴びて、潤った指先は少し熱くて、ちょっと、意識する。
あとで、あの指で――って。
だからさ、ペラペラのガウン一枚じゃ、抱き締められてると気づかれそう。
心臓が騒がしいのが。
「……ぁ……あ! っていうか、あの、マジで俺でいいの? その、君、かっこいーじゃん。俺じゃなくても。きっと君なら、いくらでも」
「貴方がいい」
「!」
やば。
何、それ。
そういう台詞とかさ。
「セックスの相手」
きっと普段だったら、ウソくさいって思う。で、「仕事」って思って、にっこり笑って受け取ってる。上手に、相手がちょうど気持ち良くなる感じに。
なのに、上手に営業スマイルできなくて、ただ、戸惑っちゃった。
初めて、この仕事でそんなことになっちゃった。
「……ぁ」
キスを意識……した。
初めて、この仕事の最中に、キスだって思った。
キスもセックスも、流れ作業だよ。もちろん気持ちいいって感じる時もあるし、テンション上がる時もあるけど、それはたまに、ごくごくたまに。普段は、キスして、盛り上がったフリして、入れて、出して――。
「っ、ン……ん、っ」
はい、ありがとうございました、って。
「ンっ……ぁっ」
舌を差し込まれて、丁寧にその舌先にしゃぶりつく。たっぷり絡めて、擦り付けて、手首をギュッと握る手が力を緩めてくれたから、その手を彼の首に回して、両手で抱きついた。身体を密着させつつ、もっと丁寧に彼の舌にしゃぶりつく。
彼が、興奮してくれるように。
「は、ぁ……」
俺のこと、抱きたいって思ってくれるように。
「ベッド、座る?」
「……いや」
じゃあ、このまま、そうキスをしながら呟いて、首に回してた手を片方だけ、解いて、胸板をなぞってく。
見た感じより筋肉質。ゴツゴツしてて、着痩せするっぽい。
「あっ……」
俺の下腹部の辺りに、硬いのが当ってる。
「嬉し……」
やばいよね。
いつもこれ言うんだ。反応してくれてウレシーって、それ言うだけでお客さんはけっこうご機嫌になるから。
けど、今の、いつものそれと違ってた。
本当に勝手に口から溢れてた独り言だった。
彼のがちゃんと硬くなっててくれたって。
ガウン越しにその筋肉に触れ、ガウンの合わせ目から肌に一つキスをして、手は下腹部へ滑らせてく。
「……」
その場に膝をついて、腰を下ろした。目の前には、それがあってさ。
「あっ……ン、む」
ガウンの腰紐は解くことなく、そのまま裾を開いて、そそり勃つそれに手を添え、ためらうことなく口に咥える。
「っ」
「ン、んっ……ン、ん」
唇で扱いてあげると、ビクッと跳ねてくれた。その拍子に咥えてた唇を、鼻先を、彼のが掠める。
「おっき……」
思わず呟いちゃった。
どれもいつもどおりの営業用褒め言葉なのにさ。
いつもどおりのテンションで言えてなくて、苦笑いが溢れる。
「ン」
先端の丸いところにキスをしてから、竿を掌で包んで、唇を這わすように裏筋をなぞってく。根本に辿り着いたら、キスマークをつけるみたいに、そこをちょっとだけきつく吸い上げて。また、今度は舌で刺激をしながら裏筋を舐め上げて。
「ん、む……っ、ン」
「っ」
チラリと見上げると、射抜くように見つめられてた。
その視線にゾクゾクして、自分の喉奥が強いお酒でも飲んだみたいに熱くなっていくのを感じる。もっと、強く、きつく、唇で扱いて。
「ン」
もっと、たっぷり舌で濡らして。前髪を耳にかけて、口元が彼にも見えるようにしながらしゃぶってく。
「あっ」
あとで、これが俺の中に入っちゃうんだ、なんて考えながら、自分の後ろを指で撫でて。
「っ」
ここ、好き? このくびれのところ。
「っ、っ」
ここは? 先端のとこ。
「っ」
ほっぺたの内側で扱くのは?
「ん、ンンっ……ぁ、ン」
口でしてあげる。
「ン、ふっ……ン、ん」
丁寧に。
宝物みたいに。
「はっ……ぁ、む……っン、ん」
彼がもっと興奮するように。
たくさん、舌で唇で。
「あっ……すごいっ」
気持ち良くなって欲しいって、甘いキャンディアイスでも頬張るみたいに、口いっぱいにしゃぶりついた。
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