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第12話 彼と、したい

 セックスすると思ってた。  そしたら、彼が帰ろうとして。  俺は、なんか、引き留めてた。え? ねぇ? って。  普通だったら、ラッキーって思うじゃん。お金だけもらえてさ、セックスっていう「労働」しなくていいなんて。ごくごくたまに、そういうお客さんもいた。セックスはしたくないとか、手だけでいいとか、話だけしたいとか。たまにね。  でもそういう時はラッキーって思って、そのままお言葉に甘えるのに。  今日は引き留めた。  しないの? だって。  したいの? ってさ。  自分に自分で驚いた。  ――してもいいなら、したいけど?  そう言われて。  ――貴方とセックス。  したいって思ったんだ。  彼とセックス。 「ね、ラブホでいいよ? その、こういうホテルじゃ高いじゃん」  したいって、思った。  よくわかんない。  恋愛?  今更?  そんなの無理だし、できないって、わかってるけど。 「ちゃんとしたっ、っ……ン、ん……っン」  セックス、したかった。  芝くんと。  なんでもいいから、今日、彼としたかった。  こんなふうに激しいキスをして、服を着てたらわかんない逞しい胸にきつく抱き締められて、強く、奥まで彼ので責め立てられたいって、思った。 「場所、ラブホじゃなくてもいいって、言ってた」 「言った、けどっ……ン、ん」  足元にデートや友だちと楽しそうにはしゃいでる人たちが行き交う様子が見える窓ガラスに背中をくっつけて、彼の手が俺のことを閉じ込めるようガラスに触れてる。 「俺が麻幌さん買ったんだから、俺の好きにする」 「っン……んっ」  部屋は小さいけどさ、でも、ちゃんとしたシティホテル。ベッドとデスク、壁にはテレビ。セックスするためだけに泊まるには少し贅沢なとこ。しかも相手は、恋人なんかじゃない、ただの。 「いい?」 「ン、あっ……ン」  そして、もう一度、深くて、クラクラしちゃうキスをしてくれる。激しくて、舌を絡めようと彼が覆い被さると、その強さに頭がコツンって窓ガラスに当たった。  絡め合って、唾液が唇同士の隙間からこぼれ落ちちゃいそうな激しいキスをそのまま続けながら、大きな手が俺の頭とガラスの間に差し込まれた。  頭が当たっちゃわないように。  手は優しいのに、キスは強引で激しい。  強くて、食べられちゃいそうなキスって、好き。 「ンっ」  ゾクゾクする。  髪をすくように差し込まれた指先も気持ち良くて。 「はぁっ」  足の間に入り込んだ彼の足に、快感を押し付けられてる。 「あっ……っ」  キスを止めると、彼の薄い唇が濡れてた。 「……ぁ」  その唇に見惚れて、もっとしたいって思っちゃう。 「麻幌さん」 「っ……ン」  呼吸が乱れるくらいの激しいキスに自分から舌先を差し出して、首にしがみつくように腕を絡めた。もっとってせがむように、首を傾げて、応えてると、頭を撫でてくれていた手がそのまま背中を撫でて、服の中へと入ってくる。 「っン」  指先が乳首を掠めて、甘い声が上がる。 「はぁっ……ぁっ」  抓られて、感じて、身体が火照ると、足の間にあった彼の足がクイッと股間を突き上げてくる。 「ンっ……ン」  ただ足の間にある足に触れられただけで、ちょっと当たっただけで、感じてるとこを射抜くように見つめられて、余計にまた感じて。 「感じやすい」 「あっ、ンっ」  服を捲り上げられて、真正面から見つめられてると恥ずかしい。 「ここ」 「あっ」  乳首を爪で弾かれて、喘いだら、背中がガラスに触れてその冷たさに、足の間にある彼の足をギュッと挟んでた。 「あっ、待っ……俺、汗かいたって」 「……」 「あ、はぁっ」  服を捲り上げられて、彼に乳首にキスをされて感じてるとこ。 「あぁっ」  指と舌で愛撫されて、甘い声あげてるとこ。  それを彼に見つめられてるって思うだけで、ドキドキしてる。 「あ、待って、マジで、汗かいてるってば」 「シャワーしたい?」 「したい」  なんでこんなに。 「じゃあさ……」 「?」  ドキドキしてんだろ。  セックスなんて、生理現象じゃん。  性欲を解消するための行為じゃん。  誰とでもできるし、誰としたって気持ちよければイケるし、誰としてもヘタクソだったら気持ちよくなくて、イケない。  何回も、たくさん、数えきれないほどしてきた行為。 「っ」  裸になることに照れるとか。 「っ、っ」  裸を見られて興奮してる、とか。  シャワーしてるとこをガラス越しに眺められてるからって、こんなになるなんて。  早くしたくて、クラクラしてる。  ダブルサイズのベッドの端に腰を下ろした彼がじっと、シャワーを浴びてるところを眺めてる。  まるで鳥籠の中にいるみたい。  彼の手の中で水遊びしてるみたいに、ずっと鑑賞されてる。髪を濡らして、シャンプーして、ボディソープで洗ってるところを。  その視線が鋭いから、お湯で流れて肌に伝う泡にさえゾクゾクした。  だって、今さ。 「ね……」  俺、彼に抱かれるために身体を綺麗にしてる。 「も……洗った、よ」  ガラス越しだけど聞こえるよね? ほら、彼の視線が強くなった。喉仏がちょっと動いた。 「芝くん……」  ガラスケースの内側から手をついて、彼を見つめた。 「……っ」  ゆっくり彼が立ち上がって、服を脱ぎながらこっちへ歩いてきてくれる。Tシャツを脱いで、こっちへ。  その裸に見惚れてた。  今から彼に抱いてもらうんだって思って。 「……ぁ」  ガラスケースの扉を彼が開けた。手、伸ばして触りたい。  足を絡めて密着したい。 「あっん」  裸で抱き締められたら、舞い上がっちゃいそうだった。 「はぁっ、ン、ん」  首筋にキスをされながら、筋肉質で硬い腕にしがみつくと、心臓が跳ねて。 「あっ……」 「俺は? 俺も汗かいたけど?」 「へ、き」  声、掠れちゃった。  彼に触れたくて、慌ててたから。 「洗ってあげるから」  彼が濡れちゃうのも構わず、抱き締めてた。

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