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第17話 水の中
楽しむことにした。
だって、顔、好きな感じだし。
一緒にいて嫌なことをされるわけでもなくて、断る理由がないし。
ちょっともったいないかなぁって。
せっかくなら、一週間だけおとぎ話の主人公になって、楽しもうかなって。
海外旅行に行く人ってきっとこんな感じなんじゃん? って思った。一週間、すごい満喫して、また仕事頑張ろうみたいなさ。男運なんてないから、今だけだと思うし。
それならこの一週間をすごく良い思い出にしたいなぁって。
「次、クラゲエリア」
「へぇ」
水族館なんていつぶりだろう。
本当に子どもの時以来かも。男運ないとさ、こういう王道デートコースみたいなところは無縁になるらしいよ。
過去、誰と付き合っても来たことなかったもん。
まぁ、ですよね。みんな、本命の彼女とか、彼氏と来るでしょ。二股のセフレ側とは来ないでしょ。
平日の夜だと、やっぱデートコースなんだろうね。すれ違うのは仲良さそうなカップルばっかり。けど、夏休み前だからっていうのもあるかも。そんなに人は多くなくて、ちらほらカップルがいるくらいで静かだった。
「わ……すご……キレー……」
「本当だ」
クラゲエリアに来ると、もっと一層館内が暗くなった気がした。
まるで深海にでもいるみたいに辺りは真っ暗で、ぼんやりと薄い青色のライトが水槽を照らし出してる。水中の気泡の粒、かな、小さくキラキラ光っているものがあって、それが真っ暗な中をユラユラ揺れながら上へと向かって昇っていく。
「わ……」
ユラユラ。ふわり、ふわり。
「こっちの、キレー……」
不思議なBGMがまたクラゲの浮かんでいるのに合っていて、気持ちまでゆったりとしてくる。力を入れて泳ぐ感じじゃなくて、漂って、流れに身を任せてるように。
ここも、水槽の中も同じ夜空の色をしているから、境界線がないんじゃないかなって思えてきた。
「フリルのレースみたい」
けど、手を伸ばしたら、冷たいガラスに触れた。
このガラスの向こう側にいるクラゲはあんなに柔らかそうなのに。どんな感触なんだろう。
ちょっと触ってみたい。きっと触ったらさ、気持ちい――。
「触ったら気持ち良さそうだ」
「…………っぷ、あはは」
「?」
笑っちゃったら、不思議そうに俺のことを覗き込んでる。
「触ったら、めっちゃ痛いよ」
「知ってる」
そのくらい知ってるっていいたそうに、少しムッとした顔した。
ね、そんな顔もするんだ。
言わなかったけど、別に変なこと言ってるって笑ったんじゃないよ。同じことを偶然、同じタイミングで考えてたのが楽しかったから笑っただけ。
楽しいから、笑っただけ。
だから、言わなかった。
「触ったら、痛いことくらい」
「……」
楽しむ、ことにした。
嫌なことされないし。
一週間、芝くんに独占される。相手は芝くんだけ。一晩で相手をするのは彼だけ。楽だし。普段ならすることのない、今までだってしたことのないこんなデートもできて楽しいから。
断る理由が見つからなかった。
「……けど」
目が合った。
「触ってみたい」
黒い瞳はとても綺麗だなって思った。
顔、好きな感じだよ?
声も、低くて、好み。普段も低いけど、セックスの時、ことさら低くなるのが、なんかすごい好み。
すごく――。
「……」
長い指が俺の頬に触れる。
「……芝くん?」
触れたら。
「何でもない。次、サメがいるってさ」
痛かった?
「サメ! あはは、迫力満点じゃん」
ね、クラゲもさ、触られたら痛いのかな。
前に、どっかで聞いたことある。いつだったか、魚釣りが趣味っていうお客さんに熱く語られたことがあってさ。
魚って、水の中にいるでしょ?
水の温度って、十度? 暑い夏で二十度くらい?
わかんないけど、とにかく冷たいでしょ?
だから人が触ると、熱くて火傷しちゃうんだって。
人の体温って三十度余裕で超えるじゃん。
だから、熱くて。
「うわっ、デカ」
痛いんだって。
「あ、ね、芝くん、次、アシカ!」
クラゲも、触られたら、痛いかもね。
「あ、ンっ」
やっぱりホテルだった。ちゃんとしたホテル。
大きなダブルベッドに、大きな窓。そういえば、前に、見られながらするのが好きなお客さんがいて、最悪だったっけ。その時、ラブホじゃなくてさ、珍しーって思ったんだけど。ホテルの低層フロアの部屋で、行き交う人から全然余裕で見えるようなところでさ、公開セックス。
恥ずかしいかな? とか言われて、本当に嫌だったな。
芝くんはそういうの好きじゃないっぽい。カーテンはセックスする時に閉めちゃった。それに、まるで全部から俺のことを隠すように覆い被さってくれる。
「麻幌さん」
「あっ、ンっ、あぁっ」
俺、芝くんとなら、見られても別にいいかなぁなんて。
「疲れた?」
考え事してるのが、わかっちゃったのかも。
「あ、ンっ、疲れて、ない、よ……あぁっ」
芝くんが覗き込むように俺を見つめて、それから、背中を丸めて、首筋にキスをしてくれる。まだ、昨日のセックスの痕が色濃く残る肌に優しいキスをしてくれて、乳首を指でキュッと摘まれた。
「あ、そこ、すごい、好き」
気持ちい。
「あ、ンっ、あ、あ、あ、激しいっ」
中が芝くんを締め付けると、顔をしかめてくれる。
「あ、芝くんもっ、気持ち、ぃ?」
「っ」
「あ、もっと、俺で気持ち良くなってっ、奥、たくさん、突いてっ、あっ、あぁっン」
すごく整った顔を歪ませて、あんまりベラベラ喋ることのない無口な唇を力ませてくれると、なんか、嬉しかった。
俺の中で感じてくれてるって。
「あ、ン、すご、そこ、イッちゃうっ」
だから、もっとたくさん俺の身体で彼が気持ち良くなるようにしゃぶりついて、腕で首にしがみついて、舌先を差し込んむやらしいディープキスをした。奥を何度も抉じ開けられながらキスするの。
「あ、ンっ、あぁっ、あ、やぁ……ン」
すごく好き。
「もっと、触って」
触られるのも、気持ちいいから。
「あ、あっ、イクっ」
もっと触れて欲しくて、甘い甘い、媚びた声を上げながら、芝くんのことを引き寄せた。
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