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第24話 サボり、厳禁

 明日の朝は、ここを七時半に出るんだって。朝の一限目から講義が入ってるからって、少し渋りながら言ってた。  じゃあ、早めに寝ないとじゃんって、言ったら、もっと渋い顔してた。  食事を終えて、一緒に食器を洗って、しまって、その頃にはお風呂が沸いたから、先に芝くんに入ってもらった。  シャンプーとか、大丈夫だった? って聞いたら、いい匂いだったなんて言って、目を細めるから、ドキッとした。  一個下のくせに。  一つ、年下のくせに。  表情が色っぽくてさ――。 「…………」  ドキドキする。自分のベッドで芝くんに抱かれるの。  自分のベッドで「お仕事」ってするわけなくて。  セフレも部屋に招くことはなかったし。  だって、部屋知られてトラブルとかになったらヤダから。  だから、自分が今朝も眠っていたベッドでセックスするのは、すごく久しぶりでさ――。 「やば、顔」  ドキドキしてる。 「真っ赤じゃん」  ご飯の時に缶チューハイ飲んだから、そのせいってできるかな。  風俗で仕事してるくせに、セックスの時に顔真っ赤にして、心臓ドキドキさせてるなんて、嘘っぽいじゃん。そんなダサい演出してると思われても、さ。  できるだけ、肌の火照りが収まるようにクールタイプのローションを肌に塗った。  身体を売ってるから、一応、気は使ってるほう。もう一回、髪を整えて、服は、すぐに脱ぐから、Tシャツだけでいっかな。 「……芝くん?」 「あ、ごめん。勝手に棚見てた」 「ううん。いいよ、別に」  バスルームを出るとリビングにいた芝くんが俺の宝物を眺めてた。 「これ全部?」 「そ、映画のパンフレット。今まで観た映画全部とっておいてる」  もう最初の、中学生の時のなんて、古臭くて、角のところが少し折れちゃってたりする。引っ越しとかしてるから、どうしても、ね。  芝くんがじっとそのぎゅうぎゅうに並んでるパンフレットを見つめてた。  俺はその横顔を眺めながらキレイな顔って思ったりして。 「どれもレンタルで見たのばっか」 「そうなの?」 「この辺りは」 「へぇ、どれが一番覚えてる?」 「これ、かな」 「あ、それ俺も好き」 「あと、この辺」 「あー、それもいいよね」  普通に見惚れてた。 「あ、これもよかった……よ」  やばいやばい。見惚れてちゃダメでしょ。って、慌てて目を逸らして、パンフレットのことで紛らわそうと思ったら、不意打ちのキスに、ぶつかった。 「いっつも、麻幌さんっていい匂いだけど」  ドラマのワンシーンみたいなキスで。 「風呂上がりの麻幌さんは、ヤバい」 「……ン」  すごく、ドキドキした。  リビングがすごく広くて、大きな窓があって、一人で眠るには大きいベッドがある。  大体眠るのが朝方だから、遮光カーテンないと絶対眠れないってくらい、日差しがふんだんに降り注ぐ南向きのワンルームマンション。  普通の大学生には住めないような、それなりのいいところ。  まぁ、それなりにお金はもらってるから。  リビングとベッドとの間を棚で仕切ってる。移動できる棚になってて、寝る時はスライドさせて扉みたいにリビングとの壁にもなるし。邪魔なら全部を重ねちゃえばそんなに邪魔にならない、  広さと南向き、それにこのスライド式の棚。これが気に入ってこの部屋にしたんだ。映画関係のパンフレットだったり、宝物をここに並べられるなぁって。  ほら、一応、収入はあるから。 「ン」  一人用にしては少し大きいベッドなのは、誰かが一緒に眠るためじゃなくて、ただ俺の寝相が悪いから。  寝相、すごいんだよね。たまに、ぐるりと百八十度自分が回転してたりする。俺は寝てる間に何してんの? って驚くよ。  今日はオフの日でもないのに一日、部屋にいた。料理なんてほぼしないキッチンをフル活用。朝方からようやく眠れるはずのベッドに、今日は夜からいる。  そして、そのベッドにはもう一人分の重みが乗っかる。  きっと俺の部屋がおしゃべりできるのなら、すごく驚いてると思う。 「? 麻幌さん?」  ここに、彼がいることに。 「どうかした?」  キスに答えていたら、ちょっと、笑ったのがバレちゃった。  唇を離して、首を傾げながら俺を覗き込む芝くんの黒髪が額に触れて少しくすぐったい。  上半身裸の芝くんに覆い被さられると、心臓が跳ねた。  良い身体してるよね。同じ男なのに、俺、筋肉付きにくい体質だからなぁ。でも、まぁ、仕事のタイプ的に細身の方が喜ばれるんだけどさ。  そして、上半身裸の芝くんとは逆に、下は何も身につけてない俺が素足を彼の足に擦り寄るように密着させた。 「なんでもない」 「……」 「っていうか、俺が押し倒されてるんだけど」 「?」 「気持ち良くしてあげないと、でしょ」  ダメ、でしょ。サボっちゃ。そう思って、起き上がると、今度は芝くんを俺のベッドに押し倒した。形勢逆転。俺が芝くんの上に乗っかってキスをした。  甘やかで、とろけてくれそうな、そんなキス。 「ン……ん」 「麻幌、さん」 「キス、気持ちい?」  俺が芝くんを気持ち良くしたげないと。 「麻幌さん?」  俺の、じゃ、新品じゃないけど。 「芝くん……」  唇で、手で、奥で。 「……ン」  この身体で気持ち良く、してあげないと――。

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