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第28話 仕方がない

「いや、メロンにバナナのカクテルって言ったらもっと甘くない? っていうか、もっとこう、さぁ」 「まぁね」 「まさかの味だったんだけど」 「まぁね」  一軒目はイタリアンのレストラン。そこから二軒目にハシゴして、バーに行った。  そのバーで、何杯目かわからないけど、最後の方にちょっと変わったカクテルをって言って頼んだのが、不思議な味で、ナオがひどく渋い顔をしてた。俺も、ちょっと一口だけもらったけど、確かに、そんな渋い顔になっちゃうような味をしてた。  でも、まぁ、うん。そうね。  そんな曖昧な感想をお互いに言い合ったけど、おかわりにもう一回、そのカクテルを頼むことはなかった。  そしたらさ、そのカクテルがお店のオリジナルで、開発したスタッフがすっごくイケメンで。  あんなにハンサムなのに、メロンとバナナの組み合わせを選ぶんだってとこがなんかツボだった。かっこよく、「いかがでしたか? オリジナルなんです。おかわりなさいますか?」って言われて、苦笑いでさ。  そのハンサムスタッフが立ち去った後のナオの名言がおかしくて。  ――あの組み合わせを考える辺りさ……セックス下手そう。  だって。 「っていうか、ナオがあんなこと言うから、あの後何言われても笑っちゃったじゃん」 「だって、メロンにバナナだよ? メリハリないじゃん。濃厚なメロンに濃厚なバナナって。どっちもなんかこってりじゃん。愛撫ねちっこそう」 「また、そういう」 「愛撫だけで孔ふやけそう」 「おい。ここ、公共の場」  あははって、ナオのやたらと弾んだ笑い声が真っ暗で星がひとつも見えない繁華街の夜空に吸い込まれてく。  多分、ちょっと酔っ払ってて。一歩一歩前に運ぶ足が、ポーン、ポーン、って投げ出すみたいで。ちょっと危なっかしい。 「はぁ、楽しかった」  もうすぐ本格的な夏になる。夜になっても昼間の熱がかなり残っていて、ちょっと肌がベタつく。 「また明日から仕事だぁ」 「……」 「明日のお客さんがバナナとメロンの組み合わせにドヤ顔するような奴じゃありませんように」 「また、それ言う」  こういう夜は、なんか。 「さて……俺は……ちょっと寄り道してこうかなぁ」 「三軒目?」 「んー、ハッテン場」 「今から?」 「したいだけだし」  ちょっと、わかる、かも。  今、ちょっと、したい。 「なんかさぁ……たまぁにない?」  ある、かも。 「こっちがしてあげるんじゃなくて、欲しいだけしてもらえるセックス」  奉仕じゃなくて、奉仕されるんじゃなくて。欲しいだけ、お腹いっぱいになるような、そんな行為。 「まぁ、お仕事でそれは無理だけど、この仕事してて彼氏って言ってもね」 「……」 「よくてセフレか、ハッテン場で捕まえるか」 「……」 「な、わけで、これから欲しいだけしてきます。明日は、イクのに時間かかるリピートさんがいるからさ」  そのための英気を養ってきますって笑ったナオの明るい色の髪をじっとりと夏の風が揺らした。夏の、じっとりとした湿り気のある風。 「マホも来る?」  こういう汗がじんわり滲むような夜風に当たると、なんでだろう、なんだかしたくなる。もっと汗ばんで、もっと濡れて、もっとぐちゃぐちゃになるような、熱いのが、したくなる。 「マホなら、すぐに捕まえられるよ」  したくなる、けど――。  もちろん、ハッテン場には行かなかった。ナオとは駅で別れて、そのまんま素直に帰宅した。 「…………はぁ」  夜なのに、暑かったな。湿気がすごくて、帰り道も電車の中も、なんだかじんわり暑くて。汗で肌がベタベタする。  まるで、セックスの後みたい。 「はーぁ」  溜め息をつきながらソファに寝転がった。あー、寝転がる前にシャワー浴びてスッキリしちゃったほうがいいのに。汗ばんで、ベタベタで気持ち悪いのに。  イッたばっかの、まだ、硬いのが俺の中で締め付けを味わってる時みたい。汗ばんで、熱くて、喉が渇いてさ。 「……っ」  キス、したくなる。  だから唇を噛み締めて。  そんで、手を伸ばして、首に腕巻きつけたくなる。  だから、その手で自分のを握って。それから、奥に触れる。  ――麻幌さん。  低音が優しく俺のことを呼んで、汗でベタベタなのもかまわず、きつく抱き締めながら、奥を脈打つ硬いので小刻みに揺さぶるの。  腹の上には俺がイッた体液がべっとりなのに、それも、気にしないで、濡れた音を響かせて、奥ばっか小突かれる。 「……ぁっ」  イッたばっかで、頭の芯痺れておかしくなりそうなのにさ。  そんなのお構いなしで、奥をノックされるとたまらなくて。 「あぁっ……あ、あっ」  もう、イったってばって、言葉はどっかに溶けて消えて。 「あ、奥、欲しっ」  甘ったるい声でそんなことを呟く。 「あ、あ、あっ、あぁっ」  乳首も抓ってよ。  痛いくらいに噛んで欲しい。 「あぁ……ン」  硬く尖ったところを優しく摘まんで、意地悪く、爪で弾いて。 「あぁっ」  たまらなくて、奥がキュンってする。  孔が疼いてさ。 「あ、あぁン、アンっ……あぁっ」  自分から腰を浮かせて、おねだりしたりして。 「あ、もっと」  ――麻幌、さん。 「もっと」  指じゃ足りない。 「あ、ンっ」  だって、もっと太い。 「あぁっ」  もっと熱くて、硬くて、俺の指じゃ届かない奥まで来てくれる。孔をいっぱいに拡げて、彼の形に広がって、何度も何度も抉じ開けて、貫かれる。 「あ、もっと、芝く、ンっ」  彼に――。 「あ、イクっ、イクっ、イクっ」  彼ので。  ――なんかさぁ……たまぁにない?  あるよ。  ――こっちがしてあげるんじゃなくて、欲しいだけしてもらえるセックス。  欲しいだけ、し合えるセックス。  したい時あるよ。けど、今は、その相手がセフレじゃ無理っぽくて。その場のみのハッテン場で捕まえる気も起きてくれなくて。  仕方がないから、指で慰めた。  今日は、オフだから。  芝くんに、今日のこの身体は買ってもらえてないから、できなくて。でも、代わりのなんて欲しくなくて。 「あっ、あぁぁっ、芝っ、く……ンっ」  仕方がないから、指で、頭の中を芝くんとしたいくつかのセックスでいっぱいにしながら慰めた。 「……ぁ」  それでも、誰かとするよりもずっと気持ち良くて、彼の声だけで、中は切なげにずっと自分の指にしゃぶりついてた。

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