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第29話 ネコは待てができない
お昼の前にメッセージだけ、しておいたんだ。
うちでいい? って。夕飯も、シャワーも、寝るのも。
「……麻幌さん」
待ち合わせは、一昨日と一緒。マンション近くの駅の改札。
今日、土曜日だから、めちゃくちゃ駅前が混雑してた。行き交う人たちはどこか楽しげで、平日よりも表情も明るい気がする。その大勢の人の波の中で、パッと、芝くんがすぐに見つけられた。
「……お疲れ様」
急足な濁流の隙間をすり抜けるように、まっすぐこっちへ向かって歩いてきた。
「昼にメッセージ見て、びっくりした」
だって、早めに連絡しないとホテル、取っちゃうかもしれないじゃん。
「午後、講義どころじゃなくなった」
「あは」
ホテル、もったいないよ。今夜はとくに。
「また、麻幌さんの部屋に行けるなんて」
夜景も見る暇きっとないと思うから。
良い感じのホテルを堪能すること、ないだろうから、俺の部屋でいいよって、思ったんだ。
「なんかあった? 麻幌さん」
「ン、なにも?」
何もなかったよ。
ただただ。
「すご……芝くんの、も、こんな」
「っ」
昨日、君をオカズに一人でしたけど、足りなかったから。早く、これが欲しくてたまらなかっただけ。
「あ……ン、む」
「シャワー浴びてないよ」
「ン、いい、このまま……ン」
ね、昨日、芝くん、俺のオカズにされてたよ。
「っ、麻幌さんっ」
夜、何してた?
友だちと遊んでた? 大学の勉強の復習とか? 課題とかやってたりした?
俺は、同業のネコの子と飲みに行って、酔っ払って、「仕事」じゃないセックスの相手を探しに行こうよって言われたけど、断った。
してあげるサービス業のセックスじゃなくて、気が楽で、してもらえる「サービスしてもらう」セックス。
それを断って、芝くんで抜いたよ。
君の指の仕草を思い出して真似をして。
君の太さと硬さを思い出して。
けど、あのたぎるような熱は真似できないから、結局、足りなくなった。
俺が欲しいのは、太くて、硬くて、俺より体温が高い芝くんのだから。
「は……ぁむ……ンっ」
「それに、ここ玄関だけど? いいの?」
コクンと頷いた。
「……溜まってんの?」
「ン」
別に毎日セックスしたいってほど中毒じゃないんだけどな。むしろ、仕事にしてからは、欲、薄くなった感じだったよ。
「どう、かな」
しゃぶりながら、そう答えて、芝くんの脱ぎ掛けの下着に顔を埋めるようにしながら、そっと根本にキスをして、唾液で濡れた先端を手の中で揉みしだく。
「っ、エッロ……」
だって、したくて仕方なかったんだから、しょうがないじゃん。
「あっ、待っ」
「無理っ」
まだしゃぶりたいのに。揉みしだいてた手を強く掴まれて、そのまま引っ張り上げられた。
もっと口で芝くんの舐めたかったのに。舌で味わって、硬さを唇で感じて。頬の内側に芝くんのカウパーを擦り付けたかったのに。
「ン、芝くんっ」
奪われた手首がちょっと痛くてゾクゾクした。
「こっちはっ」
ボソッと芝くんがそんなことを呟いてから、噛み付くように首筋にキスをされて、甘い目眩が襲われる。
「あっ、ンっ」
服を弄られて、お腹を撫でられただけで、下腹部がズクズク甘く疼き出す。
「あぁっン、あ、もっと強く、してっ」
服の中を手がまさぐって、乳首を痛いくらいに摘まれた。
「やぁっン」
感度がすごい。柔らかく触られると、ゾクゾクってする。強く爪で弾かれると、なんか、目の奥でチカチカと光が点滅してる。
「あ、待っ、芝くんっ」
イきそう。
「あ、あ、あ、芝くんっ、ン、キス……してっ」
昨日からずっと欲しかったから。
「ン、ン、ンンンンンンっ」
舌を激しく絡ませ合いながら、玄関の扉に寄りかかって、こんな場所で――。
「あっ……ン」
「っ」
「ヤバ……ね、芝くん……俺」
ぎゅって抱きついた。耳元に唇をくっつけて、呼吸を乱しながら囁いた。
「キスと乳首で……イっちゃった……ぁっ」
どろりと濡れた身体はまだ全然疼いてて。
「あ、早く、奥……芝くんの」
これじゃちっとも満足できそうになくて。
「挿れて……」
孔が芝くん欲しさにヒクついて、どんなおねだりでも今ならしちゃうんだろうなって、思った。
昨日は、イタリアンのレストランでナオと今まででこっちがリピートして欲しいってお願いしたくなったお客さんの話で盛り上がったんだけどさ。
頭の隅でずっと芝くんのことが思い浮かんでたよ。
「あ、あ、ぁっン、あ、すごっ……激しいっ」
ナオはすごくたくさん、リピートのお客さん抱えてるけど、その中でもやっぱ特別気に入ってるお客さんっているんだって。みんなに笑顔で、みんなにリピートされてるナオでも、そういう特別があるんだってさ。
「あ、ンっ、そこ、あんま、ダメっ、あ、あぁっンっ」
俺も、いるんだ。
一人。
リピートしてなんて、頼めないけどさ。そういうおねだりはすごく下手なんだ。営業トークは上手だけど、本心が混ざったおねだりはすっごく苦手。
だから、言えない。大学生で、もうすでにたくさんお金使わせちゃったしさ。
また買ってなんて。
もっとたくさん買って、なんて。
「あ、あ、あ、ン……乳首っ、ダメ、感じちゃっ、それ、ヤバいっ」
そのあとは、バーに行った。
オリジナルのカクテル作ってくれるところで、雰囲気良かった。ゲイバーだけど、お酒がすっごく美味しかった。一個だけ、メロンとバナナのカクテルはあんまだったけど。それを作ったバーテンダーさんがかっこよくて、けど、セックスは下手そうってナオが言ってた。
その時も、芝くんのことをふと思ったよ。
「あ、ンっ、あ、待って、イッちゃうっ」
君とのセックスは、最高って。
「あ、あ、あ」
で、帰ってきて、君を思い出しながら、このベッドで一人でした。
「あ、そこ、突いてっ、お願いっ、イクっ、あっ」
けど、昨日、指じゃ、そこ届かなかった。
ここ。
「あっ、イクっ、イクっ」
そこ。
「あっ、ダメっ、イクっ」
これが欲しかった。大きな背中にしがみついてないと、おかしくなっちゃいそうなくらいに激しい追撃が欲しかった。攻め立てられて、中がキュンキュンしてる。
中イキしてるのに。
芝くんのおっきいのにこんなにしゃぶりついてるのに。
構わず抉じ開けられてく。
やらしい音をさせながら。
甘い悲鳴を溢しながら。
「あっ、イっ……クっ……ぁ、あぁぁぁぁっ」
「っ」
芝くんの背中に爪を立てながら、イきたくて仕方なかった。
「あっ……っ……っ」
オフだった昨日と、今日、芝くんに会う夕方までの間、早く、君にこうされたくて。
「あ、ン……もっと」
たまらなかった。
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