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第50話 愛しい夜
イカスミのパエリアは端っこのとこ、焦げちゃってバリバリだったけど真ん中は食べられるからさって、誤魔化した。
黒くて、焦げてるのか、ソースの色なのかわかりにくいから、真ん中だけ食べてって。
言ったのに。
端っことか関係なく食べてくれた。
ソースはパスタ用のを使っただけだし、お米炒めるのだって簡単だったから、ほんと、誰でも作れると思うけど。
でも、すごくたくさん食べてくれたのが、すごく嬉しくて。
アサリの貝殻が開くのかわかんなくて焦ったこととか、イカ捌くのちょっと大変だったとか、出来上がるのか不安で、けど、ふたは開けちゃダメってサイトに書いてあったから、そわそわしちゃったこととか。
アピールしまくっちゃった。
まるで夏休みの自由研究頑張ったんだぞって、先生とか親とか友だちに自慢気に話す子どもみたいに。
大人ならさ、もっとすごいのを自由研究で作れちゃうだろうし。もしかしたら友だちだって、ものすごいのを作れちゃうかもしれないのに。俺、不器用だから。
そんな自分の精一杯で背伸びして手を伸ばして掴んだんだぞって。
ねぇ、すごいでしょ? って。
アキくんの方が断然料理上手で慣れてて、俺の料理なんて拙くて仕方ないだろうけど。
けど、テンション上がっちゃうでしょ。
――すげ、本当に嬉しい。
そう言って、アキくんが顔くしゃくしゃにして笑ってくれて、見栄えとかもフツーで、ちっともな「ごちそう」を写真に撮ってくれたから。
真っ黒なせいで焦げてるのかもわかんないパエリアと、ツヤツヤこんがり焼き目にはならなかったチキンソテー。それから野菜をちぎっただけのサラダなのに。
――麻幌さんとツーショットで撮ってもいい?
とか、言われたらさ。
――えぇ? これの前で記念写真?
どんな絶景スポットに行ったら、今のアキくんの満面の笑みを超える表情になるんだろうってくらい、本当に、嬉しそうにしてくれた。
――ありがと、麻幌さん。
嬉しそうに笑って、何より美味しいキスをしてくれた。
ねぇ、嬉しくて、幸せで、溶けちゃいそうなんだけど。
「ン、も、平気っ、ってばっ……あっンっ」
甘く柔らかく、優しくされて、溶かされそう。
「あ、あっ、アキっくンっ……」
手料理、たくさん食べてくれた。
一緒に笑いながら食器を片付けて。
それからお風呂入って、置いていった服、洗ってあるからそれに着替えてもらって。けど、またすぐ脱ぐよね、とか思ったりして。
――アキくん。
そう名前を呼ぶ声を甘い感じにして。
キスで、誘った。
仕事じゃなくて、本当に自分もしたくて誘うのってどうするんだっけって、わかんなくて。
なんて言うのが良いのか忘れちゃったから。
キスで誘った。
「麻幌さん」
「っ」
抱き締められながら、首筋にキスしてもらえるのが好き。
「あっ」
キスマークが付くくらいきつく吸われるのとかも好き。
「……ぁ」
もうガチガチに硬くなってるそれに手を這わせた。両手で、誘うように撫でて、裏筋のところを手のひらでやんわりなぞってから。
脚を開いて、それから――。
「っ、あ、アキっくぅ……ンっ」
えっと。
「あ、あっ」
えっと。
もう、どうするのかわかんなくなった。アキくんに柔らかくて優しくて甘くて美味しいケーキみたいに何度も抱いてもらったから。
「っ、ンっ」
ドキドキする。
アキくんが俺の脚を抱えて、柔らかい太腿の内側にキスマークをつけてるところを見つめながら、喉が鳴った。
射抜くように見つめられて、心臓が、トクンって跳ねた。
どうするんだっけ。
上手なおねだりの仕方。
相手をその気にさせる上手な「見せ方」ってどんなふうにしたらいいんだっけ。
「仕事」で覚えたたくさんの誘惑の方法とか、恋愛感情なしの、快楽ばっかを混ぜ込んだみたいなセックスとか、もう覚えてない。
「あっ」
覚えてるのは、挿れる前に、ほっぺたか、おでこにキスをするアキくんの柔らかい唇の感触。
「ぁ、あぁっ」
それから、挿れる時、しっかり掴まえてくれる、大きな手の力強さ。
「っ」
「ぁっ……ンっ」
中を抉じ開けてくれる時、息を詰めて、かっこいい顔をくしゃっとさせるとこ。
「中、あっつ……」
「っ、ンっ」
それから、覆い被さってくれた時の重さに、ほぅ、って自分の口から溢れる柔らかい溜め息。アキくんの心地いい重さ。
「ぁっ……あっ」
もっと色んなセリフあるんだけど。
相手を喜ばす言葉をたくさん知ってたんだけど。
「あぁっ、アキくんっ」
「麻幌さん」
ベッドのシーツが乱れてく。
濡れた音が部屋に響いて。
「あ、あ、あっ……そこ、気持ち、ぃ」
手を伸ばして、その首にしがみついた。強く突き上げられて、ズリ上がりそうになるから、しっかり掴まって、奥深くまでアキくんのが届くように。奥までいっぱいにして欲しくて。
「麻幌さん」
「あ、ン、アキくっ……ン、んっ……ンンっ」
これ、好き。
小刻みに中を擦られながら、キスするの。
だから背中にしがみついて、脚をもっと開いて。舌も自分から差し出した。
絡めて、貫かれて、熱いのでとろけた奥まで君で。
「あ、あ、好きっ」
「っ」
「好きっ」
満たされる。
「麻幌」
「っ、ん、あっ、あっあぁぁぁぁっ」
「好きだ」
溢れるくらいに満たされて、アキくんで俺の中がいっぱいになってく。
このセックスがたまらなく、好き。
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