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第58話 和気藹々

 どう、しよっか……。 「……」  倉庫の受かっちゃった。今、居酒屋風レストランで、アキくんと映画制作グループのみんなが来るのを待ちながら、スマホを確認したら、面接したのが昨日で、合格のメールが今日、来ちゃってた。  昨日は、オーナーから経理の仕事、してみるかって、言ってもらえた。  今、自分なりに獲得した倉庫での仕事と、オーナーが助け船を出してくれた経理の仕事の二択が、俺の目の前に転がってる。  経理の仕事をしたら確かに経験値になるよね。履歴書とかにも書けるし。どんなお店ですか? とかまで面接の人って調べたりする? お店の名前はなんか、そんなに怪しくないんだよね。エンジェルなんとか、とか、ピンクなになに、とか、いかにも! みたいな名前じゃないからさ。まぁ、お店を検索したら、バレちゃうんだろうけど。でも、オーナーに、ほぼドタキャンで仕事辞めて迷惑かけたのに、ここで助けてもらうって言うのは都合が良すぎるかなぁって。  甘えてる、かな。  倉庫の仕事は、力仕事がメインって言ってた。冷暖房完備、送迎バスもある。夜勤はないけど、早番と遅番があるって。早番は、めちゃくちゃ朝早い。遅番は帰りがけっこう遅い。でも、自分で見つけた仕事、ではある。 「うーん……」  また、選択、かぁ。 「どうかしたんですか?」 「!」 「お疲れ様でーす」 「お、ツカレサマ、です」  仁科さんが一番目に到着した。  今日はポニテかぁ。暑いもんね。今日、最高気温何度って言ってたっけ。なんか数字見るだけで熱中症になっちゃいそうな気温がスマホの画面に並んでて、パパッと目で見て済ませちゃった。  男子に大人気のポニテで、尚且つ、汗を拭う仕草とか、ちょっとドキドキさせられちゃう感じで。 「あ、あとで、芝くんと健二くん、来ます」 「あ、うん」  そして漂う、気まずい雰囲気。  だって多分だけど彼女、アキくんのこと好きだと思った。勘だけど。あの時、駅でアキくんに話しかけてた時に――。 「駅で」 「う、うんっ」 「芝くんに、その、麻幌さんが、えと……いるって私が話したんです」 「ぁー……うん」  私も好きっ、とかって言われちゃうかなぁ。 「あの、多分ですけど、芝くんって、麻幌さんのこと……」 「ぁー……」  俺のですって、言っちゃっていいのかな。  だってさ、普通は仁科さんの方がお似合いじゃん。男女だし。アキくんがゲイなら話しは変わるかも知んないけど、俺しか見てこなかったから、その辺自覚ないんじゃないかな。  仁科さん可愛いし、ポニテ似合ってるし、映画も詳しいでしょ? キラキラしてるし。サラサラしてるし、髪。だから。 「あ、あのっ、すっごいプラベに突っ込んじゃいますけどっ、高校の時の後輩なんですよねっ。いや、その探り探りっていうか、色々、聞いてみたりはしたんですけど、芝くんってけっこう硬くなに口を割らないっていうか。その、かまかけてはみたんですけど、なかなか白状しないっていうかっ」 「プラ、べ」 「いや、だって、イケメンで、頭良くて、一般教科とかめちゃくちゃすごいんですっ、絵に描いたような人だなぁって思ってて」 「あ、うん」 「何で、演劇科行かないんだろって思ったんです。専攻、思いっきり裏方じゃないですかっ、もったいなって!」 「う、うん」 「そしたら、映画を一緒に作りたい人がいるって」 「ぁ」 「その人追いかけてここに入ったのに、いない、とか、ボソッと呟くんですよっ」  あ、今の、すごい似てた。声ワントーン下げて、渋ーい顔でボソッと。そっくり。 「はい? 誰? 何? って、聞いたら、高校の先輩って」 「ぇ」 「けど、聞いてくうちに、あれ? 男の先輩? マジで? ってなって、聞いてくうちに、あれ? これ、片想いでしょって」  聞いてくうち、を二回言った、よ? 「けど、その想い人はすでに、大学辞めててぇ」  そこで仁科さんが何を追いかけるように手を前に差し出して……パタリとテーブルに伏せた。  え、急に、心臓発作? 死……。 「けど! その人はなんと、夜職についていた!」 「わ、は、はいっ!」  急に起き上がるとびっくりするんだけど。 「もう、あの、駅にいるらしいよって噂を教えてあげた時の、芝くんの顔、最高」  そ、そんなに? キラキラって、表情輝かせちゃうくらいに? 「まるで映画みたい……最高……萌え」 「え」  萌え? 「って、思って! 色々探ってたんですけど、肝心なとこ教えてくれないんです。自分からは、麻幌先輩の話をするくせにぃ」 「ご、ごめん」  なぜか俺が謝っちゃったし。 「なので! ぜひ! 知りたいです! お二人はっ!」 「仁科」 「はいっ!」  あ。 「お店の人、オーダー取りたいって」 「あ……芝くん……もう来ちゃった」 「仁科がすごい勢いで帰ったって、脚本科で聞いたから、急いできた」 「健二くんは?」 「置いてきた」 「あいつ、使えないなぁ」 「オーダーは?」 「あ、私……カシスオレンジで!」 「おけ。すいません」  あは。 「? 麻幌さん? どうかした?」  あはは。 「ううん。俺」 「?」 「仁科さん、好きだなぁって思って」 「「は、はいぃ」」  そこで、アキくんの低音と、仁科さんの高音が綺麗にハモって居酒屋の半個室に響き渡った。 「えぇ、そんな三角関係もいいですよね。大昔見た映画であって素敵だったなぁ」 「いや、ならないし、三角関係には。そもそも仁科がヒロインに向いてない」 「まぁねぇ」  ほら、そこで否定したりしないとこ、好きな感じ。 「っていうか、何、麻幌さん、仁科が好きって」 「あはは」  今度は声に出して笑った。 「あリがとうございます。こんな美人さんに好かれて私最高」 「おい、仁科」 「うん。すごい好きー」  ついさっきまで、悩んでた頭の中にもやりが笑ってるうちに消えてた。消えて、さて、何を選ぼうかって、すっきりと考えることができてた。

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