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第77話 全部、君のもの

 ここがアキくんの部屋、かぁ。  かっこいいからモデルルームみたいにオシャレなところにいそうだけど、映画のポスターがたくさん貼ってあって、子どもの頃から使ってる勉強机の上には、昨日まで課題に追われてたって感じにテキストが散乱してる。ノートパソコンが少し古い型っぽい。あ、鉛筆盾、図工とかで作ったのかな。粘土細工が不器用な感じで、ちょっと可愛い。  アキくんって、器用そうなんだけどなぁ。なんでもサクサクできちゃいそうな感じがするけど。ほら、料理だって上手だしさ。 「あっ、っ」  その長い指に腰を撫でられながら、クイって引き寄せられて、首筋に一つ、キスマークを付けられた。 「キョロキョロしすぎ」 「ぁ、だって」  図工のペン立て気になるんだもん。不器用なのかなって。 「あ、あっ」  もしも不器用なら可愛いなぁって思った。料理だってできて、映画の制作の時もさ、すっごいテキパキしてんの。仁科さんも健二くんもアキくんがいれば大丈夫って言ってた。段取りから設定、準備丸ごと、本当に上手でさ。それを見ながら、ちょっと大昔、高校生だった頃のアキくんを思い出した。いつも暖かくなっていた視聴覚室を。いつだって、涼しく整えられていた、あの空間を。  大人になって文句のつけようがないかっこいい男子になったアキくんの、ちょっとした隙間から見える、あどけないアキくんをもっと見てたい。 「あんま、部屋の中、見なくていいよ」 「ンっ」  けど、それはアキくんには少し照れくさいみたいで、邪魔をするように、俺の視界に入り混んで、キスをする。深くて、とろける、全身が痺れちゃうようなやつ。  覆い被さって、鎖骨にも唇で触れてもらえると、心臓が跳ねて踊り出す。 「……」 「? アキくん?」 「……」  ふと、アキくんが前戯を止めた。  それから、おでこに、コン、って、おでこをくっつけて、静かに小さく、アキくんが溜め息をついた。 「本当に生きた心地しなかった」 「……」 「だから、貴方の邪魔には絶対にならないから、次に何かあったら全部言って」 「……」 「頼むから」 「うん」  胸があったかくなる。  アキくんといると多幸感が溢れてくる。 「ね、アキくん」  俺の身体に触れた人はたくさんいて、セックスも数えきれないほどしてきたけど。キスもたくさんしたことあるけど。 「俺、こんなだけど」 「……」 「純潔、みたいなの、全然ないけど」 「麻幌……」 「俺の全部、アキくんにあげる」  古びてるかもしれないけど。 「俺、丸ごとアキくんにあげるから」  ぎゅっと首に手を巻きつけた。 「もらって……くれる? ……っ……ン、んんっ」  深く口づけてもらった。舌を差し込んで絡めて、混ぜて。 「……当たり前だ」 「あっ……」  大きな手が好き。その手に抱き締められると、たまらない気持ちになる。 「ぁっ、嬉し、いっ」 「麻幌」  その低い声に名前を呼ばれると、自分の名前が好きになる。 「あ、あっ、あっ、アキくんっっ」 「っ」 「ん、んんっ、ぁ、あぁっ」  君に触れてもらえると、世界一の幸せ者だって感じる。 「ん……すご……ど、しよ」 「? 麻幌」  君の嫌いなところ、一つもないよ。好きなところしかない。 「も、イッちゃいそう」  好きが溢れて困るくらいに好きで、思わず、口元を手のこうで抑えたら。 「なら、よかった」 「っ、んっ」  君がその手のひらにキスをした。 「ん、ひゃっ……あっ」  手のひらにキスをして、笑ってる。嬉しそうに、楽しそうに、すごく、幸せそうに。 「麻幌」  それから、ゆっくり、俺の中に、奥へ入ってきてくれる。  熱くて、大きくて、中がアキくんでいっぱいになってく。 「あっ、あぁっ、待っ、あ、あ、気持ち、すぎてっ、おかしくなりそうっなの、にっ」 「っ」 「あ、あっ、んんんっ、あっ……ンっ」  ねぇ、セックスならたくさんしてきたんだ。 「あ、あっ、あ、アキっくん」 「うん」 「あ、っ……っ、ン、ね」  キスもたくさんした。  けど。 「ね、っ」 「?」  ぎゅってしがみついたら、アキくんが首を傾げて、俺のことを覗き込んだ。どっかしんどい? ここじゃないとこ、責めて欲しい? って、確かめるように、俺の目を見つめてくれる。 「あ、あのっ、アキくんだけだからっ」 「……」 「そのっ、特別なんだからねっ、わかんないけど、もしも明日、腰ふらふらになっちゃったら、アキくんに全部してもらうからっ」  言ってること、わけわかんないよね。はい? って感じだよね。 「その…………ぁ……のさ」  元夜職してたとは思えないくらい辿々しくて、可愛くない誘い方。不貞腐れ顔だし、不器用だし。甘い雰囲気ないし、エロくもない。  けど――。 「奥、来て」  真っ赤になりながら、小さく呟いた 「一番、奥、来て」  そして、いっぱいに足を広げて、広い背中に手を伸ばしてしがみついた。 「そ、そのっ、なんというか」  君だけなんだって伝えたい。君だけがこんなに俺のこと、虜にしてるんだって伝えたい。 「いいの?」 「ぅ、ん」 「苦しかったら、言って」 「ン……んっ……ン、っ」 「麻幌」 「あっ」  ゆっくり、奥が抉じ開けられてく。深く、奥の、アキくんの長い指でも届かないとこ。君のが根本まで全部、俺の中いっぱいに押し広げて届く、奥のところ。 「っ、あっ、アキくんっ、アキっ」 「っ」  君しか知らない、君しか触れたことのない、一番、奥で。 「あっっ」 「っ」  君のことを世界で一番、幸せにしたくて。 「あ、あっ」 「麻幌」 「あ、ン、あ、も、イクっ、ぁ……イクっ」  ぎゅっと、抱き締めてしがみついた。

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