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愛になるまで編 2 恋ってやつは、面倒だ
「はぁぁ? 指で解されるのが苦手だぁ?」
「ちょおおおおお! 静かにっ! ここ、外!」
シー、って指を一本、口元に持っていくと、ナオが「はぁ?」って喧嘩越しな溜め息を一つこぼした。
「……なにそれ」
ナオってさ、もっと可愛い癒し系天使タイプ、じゃなかったっけ? 一番人気の受けネコだったと思うんだけど。それこそノンケも余裕で落とせる、女よりも可愛いタイプ、じゃなかったっけ?
「だってさ」
今日は、二人でちょっと飲もうかって話になった。
前だったら、ランチだった。夜はお互い予約入ってたからさ。こうして互いにあった最悪な出来事とか、愚痴とかを吐き出すのは、大体、話す内容には全く似合わないお日様燦々としたカフェとかだった。
今もナオはあのお店で経理の仕事をしてるんだけど、経理だからさ。夜じゃなくてもいいわけで。昼ぐらいから夜までにしてる。付き合ってる人が普通にサラリーマンだから、その人の時間帯と合うようにしてるらしい。
「そういうの、準備なんて面倒じゃん」
夜職の時はもちろん自分でやってたし、アキくんと付き合うようになってからも最初のうちは自分でやってた。だって、別に、本来は必要ないでしょ。ノンケだったら。毎回、毎回、さ。これ、相手が女の人なら必要ない「作業」はわけで。もっと雰囲気とか流れのままにすんなりできることが、男の俺が相手だとできないって言うの。
「なんか、悪いじゃん」
申し訳ないというか。
毎回すみません、っていうか。
「ナオんところはいいよ。彼氏、ゲイじゃん」
そもそもはお客さんだった。ナオのことしか指名しない、ガッツリのゲイだから準備だって、なんていうか必須ってわかってるじゃん。
いや、アキくんが分かってないってわけじゃなくて。
ただ、相手が俺だったから必要になっちゃうことっていうのが、なんか、申し訳ない気がして。そんなことないって言われるけどさ。
やっぱ、頭のどこかに、ずっと、「すみません」が残ってる。
「生粋のゲイだとか関係ないと思うけどなぁ」
「それは、だからっ」
「あ、そうだ。オーナー、結婚したんだ」
「ええええ!」
「ねー、びっくりするよね。ゲイだと思ってた」
俺も、ゲイだと、思ってた。
「って、え? 相手、女の人?」
「そ。同じ歳で同級生で、二十歳から一年間だけ結婚してた人」
「はい?」
「ドラマみたいだよね」
なにそれ。初耳の情報が多すぎて、パニックなんだけど。
「あの仕事をするし、ゲイ寄りのバイだって自覚したから離婚したんだって」
「……へぇ」
「今、めっちゃ結婚指輪して、毎回、ニヤニヤしながら出勤してくるの」
「なんか、すご」
そういう感じの人だったっけ? オーナーって。もうちょっとクールで、プライベートとかちっともわかんない感じの人だった。朝食なに食べたのかなんて、これっぽっちも予想できない人。
「まぁ、そういうことよ」
「?」
「うちの彼氏が生粋のゲイだったとしても、いつ女の人んとこに行くかなんてわかんない」
「……」
「毎回、中洗って解して、なんてことすんの面倒だな、女の人となら楽だなぁってなるかも、わかんない」
そんなことないじゃん。ナオんとこ。もうナオに首ったけって感じだった。メロメロっていうかさ。ナオのこと丸ごと余裕で包み込む感じの人だったじゃん。
「分かってるってば。別に、そんなわかんない先のことを考えて鬱になったりしてないって」
俺の考えてるとこを見透かしたようにナオが笑って、生ビールをグビッと飲み干した。
それも意外だった。なんか、ナオって甘くてカラフルなカクテルとか飲んでそうって。
「けど、生粋のゲイのうちの彼氏だって、いつ女の人を好きになるかもわかんないし。マホんとこの彼氏だって、ノンケだったとしても今は生粋のゲイと変わんないくらいマホのことしか見てない。んで、ノンケだと思ったら、ゲイ寄りのバイで、けど、数年経って、ノンケ婚したりもする」
「……」
「そんな感じに、わかんないよ。だから、気にせず、準備手伝うって言ってくれてる今に甘えればいいじゃん」
そんなふうにサバっとした考え方をするって言うのも知らなかった。
「まぁ、だから逆に、マホのことを追いかけて、貯金使いまくってでも買い占めるようなくらいにベタ惚れだったのが、急に、冷めることも」
「ぎゃああああ! つか、ないしっ」
そう少し強い口調で断言したら、真っ黒な髪が艶々なナオが目をぱちっと開いてから、あははって高らかに笑った。
「強気ぃ」
「そ、そう言うわけじゃないけどさ」
「けど、だから、準備してもらえばいいじゃん。きっと、彼氏にしかわかんない楽しさがあるのかもよ?」
「……」
そんなの、ないでしょ。俺自身、夜職だった頃、めんどくさくてたまらなかったもん。毎回、毎回、これがなければもっと楽しいのに、ってずっと思ってた。
これがなければ、気分で、急にしたくなったらできるのにって。
「っていうか、マホ、この前の映画、ちょう号泣したんだけど。他、おすすめない? デートの時にさぁ」
セックスの度にする準備、面倒だなって、思ってたんだもん。
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