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愛になるまで編   3 恋ってはやつは、欲しがりで

「はぁ……」  ちょっと酔った、かも。  歩きながら、まぁまぁふらついてる自分の足元を眺めてた。  あんま、お酒は得意じゃないんだよね。  ほら、夜職だったから。お酒って夜飲むでしょ? けど、その夜がお仕事の時間なんで、飲んでる暇ない。酔っ払ってる場合じゃない。お酒なんか飲んだら、感度悪くなるし。仕事だから、ちゃんと線引いて、好きなようにセックスしてちゃダメだから。  引かなきゃいけない防御線はしっかり引いとかないと。例えば、料金プランにない行為とか、そもそも禁止されてることとか、酔って、その線引きがふわふわにふやけちゃったらいけないから。  もちろん、準備もしないとだから、お酒飲んでる暇なんて本当に、なくて――。 「……」  今日は、ナオと飲んでた。  っていうのも、アキくんが今日は大学の映画評論兼ねた飲み会に参加することになってたから。笑っちゃうけどさ、夜職なんてしてて、自分の身体と一緒に雰囲気だけでも色恋風なものを切り売りしてた側だったのに、今じゃ、彼氏に首ったけで。彼氏が帰宅が遅い時くらいしか遊びに行かなくなっちゃった。以前の自分が見たら笑って「大丈夫?」って訊いてそう。すっごいハマってんね? って呆れてそう。いつか終わるのにって。  終わらないし。  それに、ちゃんとアキくんに大学のそういう飲み会は参加しなよって言ったよ? そういう意見交換会は出ておいた方がいいでしょ。世界は広く、視野も広くしておかないと、作り手のはずがインプットが足りなくなっちゃうよ。  だから行ってらっしゃいって見送ったんだ。  ねぇ。  遅くなるって言ってなかったっけ?  全員集合するのが遅くなるからスタート時間も遅くなっちゃうって、仁科さんから聞いてるよ。二十一時スタートでしょ? まだ、一次会だって終わってないんじゃないの?  ほら。  駅の改札の前に、まるで撮影なのかもしれないって思うくらいのイケメンが誰かを待ってる。  こんなイケメンを待たせるなんてどんな相手なのだろうって、今、通り過ぎた女の人が見つめてる。そのくらいにはカッコ良くてさ。  セックス、たくさんしたからかな。  なんか最近のアキくんは色気もやばくて。  そもそも顔いーのに色気がプラスされたらさ。  最強でしょ?  ドキッとすることがあるんだよね。  目が合った時とか。話しかけられた時とか。セックスの時だけじゃなくて、ふとしたさ。 「!」  こういう時に、こんな良い男が俺のこと好きでいるなんてこと、あるの? って、思う。 「麻幌」 「っ、なんで、ここに」 「だってここで飲んでるって言ってた」 「そ、だけどっそっちもっ」 「評論会は終わった」  えぇ? 本当にそれだけ出てきたの? もっと長くいればよかったのに。俺がナオと話し込んじゃってまだ飲んでたらどーすんの? っていうかいつからここにいたの? 俺、アキくんのほうが帰り遅くなるって思ってたから、終わる時間とか伝えてないのに。  待っててくれたんだ。 「どうだった? 評論会」 「あー、まぁ」  アキくんは当たり前みたいに俺の手を取って、改札へと歩いてく。  さっきまで一人でふわふわと歩いてた俺の足取りを支えるみたいに、ギュッと強く手を握ってる。 「麻幌ほど映画オタクはいないから、まぁまぁ」 「はい? なんっ、それっ」 「けど、仁科の評論は面白かった。この間、四人で観た昔の映画の評論してたんだけど」 「へー、そうなんだ。健二くんもいたんでしょ?」 「あぁ」 「そっか」 「麻幌と一緒に四人で評論やってたい」  それじゃいつもと一緒じゃんって笑うと、ほら、薄い唇の端を釣り上げて笑ってくれる。  あぁ、もぉ。 「麻幌は? どうだった?」 「んー、ナオが生飲んでてちょっと面白かった」 「なにそれ」 「や、だって、ナオ、カクテル飲みそうだし」 「そうか? けっこう性格さっぱりしてると思うけど」 「あ、あと、オーナーが結婚してた」 「え、あの人、ゲイなんじゃ」  だよねー。  そう思うよね。  そこはびっくりした顔するから思わず笑った。アキくんだって驚くよね。これは。絶対ゲイだって思ってたしさ。あ、けど、これからどうすんだろ。自分が抱いて良かった人をキャストにしてるのに、結婚したんなら、そのスカウトもうできないじゃん。それとも今までの経験値で、達観しちゃったとか? 「あとねー」 「……」  見つめられると、ドキッとする。  触れられると、たまらなくなる。  それが愛撫でも、こうして手を繋いでるだけでも、胸が締め付けられるくらいに、たまらなくなっちゃう。  溜め息が出ちゃうくらい。 「それでさぁ」  欲しくて、身体の奥が疼いてきちゃう。 「あ、あ、あっ……あぁっ、もっとぉ、アキくんっ」 「麻幌」 「あぁっ」  背後から強く腰を打ちつけられて、奥が抉じ開けられて、震えるほどの快感に力が抜ける。腕で支えてたのが崩れて、ベッドに沈むと背後からアキくんが追いかけるように覆い被さって、小刻みに、良いとこだけを狙い打ちしてくる。 「あ、あ、あっ」 「麻幌の中、すごい熱い」 「あ、あ、あ」  気持ちいい。  好き。  ねぇ、もっと。  奥突いて。  キスして。首筋に、乳首に、全部にキスして。 「あ、アキくんっ」 「っ」  頭の中がそんな欲しがりな言葉だけになる。 「あ、あ、あっ、アキくん」  ナオと一緒に飲んでる時から、さっき改札で俺を待っててくれる横顔を見た時から、ずっとずっと。 「好きっ」  彼にこうして激しく抱かれたいってずっと思ってた。

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