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愛になるまで編   5 恋ってやつは、からかい甲斐があって

「えっと」  配送担当があった日はいつもヘトヘトで、もうお風呂に入るのも億劫で、よくアキくんが髪を乾かしてくれたっけ。 「あ、こっちじゃんっ、道間違えた」  けど、人というのは慣れるもので。 「あ! 麻幌さんだー!」 「仁科さん、ごめんごめんっ」  物量多すぎて残業になっちゃうような配送を担当することになった日でも駅からダッシュすることができるくらいには体力がついたりもする。  辿り着いたイタリアンレストランの手前で仁科さんが両手を振りながら、こっちこっちってジャンプしてくれてる。その隣に健二くん。  奥に、アキくんもいた。  ロケハンも兼ねて、ここのレストランに来てみたかったんだって。ただ、特に映画の撮影が今、予定されてるわけじゃないんだけど。脚本科の仁科さん曰く、書くには見る触るが大事なんだそうです。だから、素敵なレストランで、美味しいご飯を食べるのはとても良いことらしい。  それに、一人では来れないし、デートの相手もいないし、大勢だったら、パスタはシェアできるから色々食べられるし。そっちの理由の方が大きそうだって笑ってた。 「ごめんね、待った?」 「全然でーす」 「ごめんごめん。遅くて」  本当は俺のほうが先についてるはずだったのに。逆に店のところで待たせることになっちゃった。  メンバーは、アキくんと仁科さん、健二さん、それからその親しい人も何人かいる。その、大学関係なく、映画好きが集まるただの飲み会だから、全然、来てくださいって言われて。  最初は断ってたんだけどさ。  俺もそこの大学に前はいたわけで、まぁ、それなりに騒動を起こして辞めてるから、あんま……ね。けど、仁科さんがどおおおおしてもって言ってくれた。同じ学科の人に、映画にすごく詳しくて、面白い評論を出す人がいるって話してくれたらしくて。  俺も、映画のこと、話すのは昔から好きだったから。 「もう中で始まってます!」 「あ、うん」 「麻幌」  アキくんだ。かっこよ……なんて。 「仕事、疲れただろ?」  全然大丈夫だよ、ありがと。そう言おうと思った……ら。 「こんばんわぁ」  アキくんの背後から女の子が一人顔を出した。 「こ、こんばんは」  仁科さんの……友達? 「俳優科のヒナです。よろしくお願いします」  俳優科、なるほどだから美人なのか。計算し尽くされた長い髪、綺麗な爪、ケアの行き届いた肌。見た目百点満点。 「よ、ろしくお願いします」  俳優科。 「前の課題の映画で監督担当されたんですよね? よろしくお願いしまぁす」  すご。名刺持ってる。 「ぁ、ちょうだいします」  その時、中にすでに入ってた同じ大学の男子たちが「華」である彼女を呼び寄せにやってきた。 「はぁい、行きます。あ、寒いので、芝くんも早く早くぅ」  すご。  ザ、猫撫で声。 「……麻幌さん、あの子、芝くんのこと狙ってるっすよ」 「! あー、あははは」  まるで、内通者みたいなそぶりで仁科さんが耳打ちしてくれた。  でしょうなって笑った。それは、まぁ、とてもわかりやすかった、です。はい。もうあんな露骨なアピール見せつけられてわからない奴いないでしょ。アキくん狙いでこの会にも参加したんだろうなって、笑っちゃうくらいにわかりやすくて。  露骨、って言葉が一番ピッタリくる。  けど、すごく綺麗な人だった。  まさに「華」だ。  俳優さんとしては花開くと思うよ。あのくらいの艶やかなあざとさって必要だって思うし。 「っていうか、すみません! 今日の飲み会のこと内緒にしてたんだけど、どうしてかバレちゃって。っていうか、親衛隊じゃないけど、ファン多いんで、どっからか伝わっちゃうんです。ホントっ、すみません。ついてきちゃった」 「え? あ、内緒だったの? 俺、言っちゃった!」  お前かーい。  って、二人で振り返った。  健二くんは驚いたように自分の口元を手のひらでギュッと抑えて、言っちゃいましたって。  それをぎゅぎゅっと眉を寄せた仁科さんが睨んでる。  いや、健二くんのその素直さもとても大事な長所だと思うからそのままでいいよ。 「さて、行こうか。俺、今日、配送担当だったからお腹ペコペ」 「ごめ、麻幌さん」 「……コ」 「?」 「麻幌、席、わかったから案内する」  席がどこだか確認しに行ってきただけだったの? 「? 麻幌? 寒いから早く中に。あんな無駄に歩かせたくない。今日、配送で疲れてるだろうし」  疲れてないって言ったら、嘘だけど、でも全然大丈夫だよ。さっきここまで走ってきたし。 「やっぱ駅まで迎えに行けば良かった。俺らの方が遅くなると思ってたから店で待たせたくなかったけど、ミスった」  きっとこういうのを溺愛っていうんだろうな。うん。 「大丈夫。っていうか、アキくんが作ってくれた焼肉弁当でスタミナ補給バッチリだったから」 「!」 「ごちそうさまでした」  ――指輪、輝いてますねぇ。  なんて、からかったけど。 「俺らも」 「私らも」 「「ごちそうさまでしたぁ」」  今、そう言って揶揄われちゃうほど。 「もおお、いーから早く席行ってくださいよー。うちらも今日講義みっちりすぎてペッコペコなんですからぁ」  うちらもまぁまぁ、仲良しだなぁって。

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