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愛になるまで編  6 恋ってやつは、ヤキモチやきで

 パスタが自慢のレストランって言ってたくらいだから、どれも美味しそうで、どれも自分では作れそうもないものばかりだった。  サラダも美味しそう。ピザもリゾットも。  リゾットがちょっと衝撃的だった。こんなに本格的なイタリアンレストランで食べると違うんだって。なんだろう、もっとイタリアンにしたお粥なんでしょって思ってたのに。 「えー? じゃあ、芝くんって監督はしないのぉ?」  あまり気にしないようにしながら、甲高いその声に全意識がグンって引き寄せられちゃう。  まぁ、狙ってる、よね。めちゃくちゃわかりやすく、芝くんのことを狙ってます、よね。  すごいなぁと、感心しちゃうくらいに露骨にアピールしまくってる。  まず席に着いた瞬間、角を死守した俳優科の彼女がもううるさいくらいにアキくんを呼びつけた。お店の迷惑になるくらいの大きな声が聞こえないわけないのに、聞こえてないふりをしたアキくんが俺と一緒に席に着こうとした。これは呼んだだけじゃダメなのね、って、立ち上がって半ば連行に近い形でアキくんを連れ去ったまま、いまだに返してもらえてない。  見えてないけど、なんかハートを可視化できる眼鏡があって、それ使ったら、アキくんが埋まっちゃうんじゃないかッてくらいに、俳優志望の彼女からアキくんへ真っ赤なハートが投げられ続けてる。  カッコイイもん。  そりゃわかる。 「っていうか、俳優科じゃないのが不思議ぃ」  それは、俺も不思議ぃ。 「ちょっとちょっと、麻幌さんっ! いいんです? あれ! 猛アピールしてますけどっ! 阻止しなくて!」 「あー……うん」  阻止したいけど、さぁ。  今、俺の方がここにいていいの? って状況じゃん? 大学関係ない飲み会だけど、いるのは大学の子たちばっかなわけで。そこに混ざる同大学中退者って感じで。しかも、彼女じゃなくて、彼氏だと……ね。  あまり思い切りやっちゃうと、アキくんの迷惑になったりしないかなぁって。 「んもおおおお! でも、まぁ、アキくんの麻幌さん一筋は揺るがない感すごいですもんねぇ。余裕ですよね」  全然余裕なんてないよ。  今すぐにあそこに行って、ちょちょちょちょって呟きながら、あのピッタリとくっついてる間に割り込みたいもん。全意識、あっちにしか傾いてないし。 「あの子、アクが強いんですよ! もう俳優科の中でも有名で」 「そうなんだ」  確かにアクがすごい。けど、あのくらいの方がエンタメ業界でのし上がれそう。全然煌びやかさは違うし、一緒にされたくないだろうけど。夜職もさ、やっぱり図太さと、自分の欲しいものをしっかりと持ってる人って強いんだよね。ブレないのは本当に大事だから。 「けど! 私がイラっとしちゃうので! 無理! 私が! ちょっとあの間に!」 「え? 仁科さんっ? いいよっ、俺も、もうそろそろ」  仁科さんが痺れを切らして立ち上がろうとした時だった。 「あのっ、虹の監督してた人っすよね!」  そう言って、知らない男の子が一人話しかけてきた。 「あ、うん」 「うわ! すげ。俺、観ました!」 「え? けど、あれ、賞とったのしか生徒に公開しないんじゃ」 「あ、ですです。けど健二から色々制作中のこと聞いてて。すっげぇ観たくて見せてもらったんです」  そうなの?   俺の斜め前に座る健二くんへ視線を向けると、深く頷いてくれた。 「俺、感動しちゃって。空気感? とか、演出がすげぇって。もちろん、仁科の脚本もいいんですけど、間の取り方とか最高で。どんな監督なんだろうって思ってたんすよ。監督が外部だから会ったら制作秘話を聞きたくてって思ってたら、すげぇ」  綺麗な人で。  そう呟いて、はにかんで笑ってる。  えへへって。 「……」  え、っと。 「あ、の」  そう彼が口を開きかけた瞬間。 「わりぃ、隣に座る」  よく耳に馴染んだ低音が割り込んできた。  アキくんだ。 「麻幌、そのバジルソースかけのオムレツ、すげぇ美味い。食べる?」 「ぁ、うん」  間に割り込まれちゃった。グラス持参でこっちに来てくれた。 「酒、もうそろそろないじゃん。オーダーする?」  これは違くて。そろそろアキくんのところに邪魔しに行くからグラス空にしただけ。そのほうが移動しやすいし、邪魔しに行ったら、もうそこに岩のごとく居座る気だったから、そっちで次のドリンクオーダーするつもりだったんだもん。 「このイタリアンレモンのサワー?」 「うん」 「わかった」  注文はテーブルにあるQRコードでスマホオーダーだから、アキくんがパパッと頼んでくれた。  その様子を見ながら、俺の正面にいた仁科さんがニヤリと笑って。 (アキくんの麻幌さん一筋は揺るがない感)  って、口を動かすだけで教えてくれた。 「麻幌。このパスタも美味い」 「うん」  余裕なんてないし、全然、ヤキモチの炎はメラメラとしてたよ。今、俺の方が邪魔しようと思ってたくらいだもん。  けど、アキくんがこっちに来てくれてさ。  今日は滅多に食べられない美味しいイタリアンに、大好きな映画のことばっか話せる貴重な時間だけど。 「麻幌、このサラダも」  今すぐにうちに帰って、アキくんに抱いて欲しいなぁって思うくらいに、今、嬉しくてたまらないんだ。

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