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愛になるまで編  8 恋ってやつは、たまに遠慮がちで

 セックス、したすぎて、帰り道での会話、口数少なくなっちゃった。  頭の中はアキくんにしてもらいたいやらしいことでいっぱいで、話す余裕なんてなかった。  けど、それはきっとアキくんも同じだった。  だって、帰り道ずっと繋いでた手は熱かったから。  この手に強く抱き締められたら溶けちゃうかもってくらいに熱かったから。 「麻幌」  玄関を開けてすぐ靴を脱いだところでその熱い手に抱き締められた。 「アキくん」  早くしたい。 「ンっ」  今すぐここで激しく責め立てるように抱いて欲しい。  優越感なんてないけど、でも、あんな綺麗な女の子にアピールされてるのにちっとも気にせず俺のところに来てくれたのがたまらなく嬉しかったから。俺が他の男の子と映画の話で盛り上がるのが嫌だからって隣に、来てくれたのがたまらなくくすぐったかったから。 「ン、ン」  早く、アキくんが欲しい。 「ン……ン」  はぁ。  って、心の中で大きく溜め息をついた。今すぐに抱いて欲しいのにさ。アキくんだって、ほら、これこんなにガチガチにしてくれてるのにさ。男の俺はやっぱ準備とかしなくちゃいけなくて。今すぐ、この熱に蕩けたテンションのまますぐに欲しくてたまらないのに、「準備」しないといけない。  面倒だよね。  ここから丁寧に解して、入るように柔らかくなるまで、なんて待ってるの、ちょっと、じゃなくけっこう焦ったいよね。  あぁ、もぉ。  そんな感じじゃない? 「ごめ、今」  つい、ポロリと謝罪の言葉が溢れた。  ごめんね、面倒で、そんな気持ちが口からポロって零れ落ちた。 「ったく」  そう、すごくイラだってそうな溜め息混じりの言葉が、アキくんの口から零れて。 「! ちょっ、アキくん? ね、ちょっ」 「……」  無言で抱き抱えられた。 「ねぇ、この、すぐに俺を抱える癖、ちょっとどうにか」  足、ついてない。お酒飲んでふわふわな俺は足をパタパタさせた。 「じっとして」 「!」  じゃあ、降ろしてよ。っていうかさ、この問答無用で俺を担いで運ぶ癖どうにかしてよ。重いでしょ? 女の子じゃないんだから。さっき、アキくんの隣にいた俳優科の彼女なら、そりゃ普通に抱き抱えられるだろうけど、俺、そこまで華奢じゃないし。何なら、今の仕事のせいで、少し筋肉ついちゃったし。  だから――。 「わっ」  あっという間にベッドの上に連れて来られちゃった。  俺を抱えたまま部屋のエアコンをつけて、それから、ゆっくりと朝、一緒に抜け出したベッドに戻ると、アキくんがコートを脱ぎ捨てた。上もそうそうに脱いじゃって、上半身裸の彼に射抜くように見つめられる。 「っ」  まだコートも着たままの俺のことを捕まえたって顔で、両手をベッドに着くと、俺の真正面でじっと俺を見つめた。 「準備、気が引けてる」 「! そ、そりゃ」 「遠慮?」 「遠慮……っていうか、めんどくさい……じゃん」  例えばさっきとか、そう。  あんなふうに盛り上がってさ、お互いのセックスのことで頭がいっぱいの時に、すぐにできないの、もどかしいでしょ。けど、俺はいつも自分で先に準備しておいてるから、すぐにできるの。そうすると、みんな、やっぱ喜ぶわけで。面倒な「待て」をスルーできるのはやっぱ喜ばしいわけで。 「面倒なわけないだろ」 「! ン……ン」  深く蕩けるキスをされた。  お腹の奥、アキくんしか知らない、俺の指でも届かない奥のところがキュンってする、甘いキス。 「? アキくん?」  キスを終えると、アキくんはベッドを離れて。 「!」  クローゼットの近くに置いてある姿見の鏡をこっちへ向けた。  それ、なんで、こっちに。 「麻幌」 「ぁ、ちょっ」  そして、アキくんもベッドに上がるとコートごと背中から俺を抱き締めてくれる。 「ねぇっ」  これって。  今、前を向くと、自分が鏡に映ってる。上半身裸のアキくんに後ろから抱き締めらてる自分がそこに。 「アキくん?」 「ただのヤキモチ」 「?」 「さっき、麻幌が誰かと映画の話で盛り上がってんの」  アキくんが話しながら、俺の髪に鼻先を埋めてるのが、鏡に映ってる。 「高校の時と違って、隣にいんのに」 「ぁ、っ」 「キスマークつけていい?」  帰ってきたばかりの部屋はキンと冷えきっていて、エアコンは急いであっためようとしてくれてるけど、まだ全然寒い。なのに、熱くてたまんない。  コートも脱がずに、けど、後ろから抱き締めてくれる腕が、手が、俺の服を乱して、いくつかボタンを開けて顕になった首筋に、アキくんの唇が触れた。 「ンっ」  チリチリって小さくて、甘い刺激が肌に走って、きっと赤い印が一つ付けられた。  それが、鏡に映ってる。 「麻幌……」 「あっ、ン」  早くしたい。  早くアキくんとセックスしたい。  早く。  そんな熱に蕩けた顔の自分も鏡に映ってる。 「あっ、ね、アキくんっ」  そして、早く俺のこと抱いて、めちゃくちゃにしたいって顔をしたアキくんが、鏡越しに見える俺の顔を見つめてた。  ゾクゾクするほど、熱っぽい目で服の中を弄って。 「あぁン」  乳首を指で摘まれたら、甘い声が溢れて仕方のない俺のことを目で堪能してた。

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